
はじめに:ズボンの着脱は工夫次第で楽になります
「最近、ズボンを上げるのが一苦労…」「親の着替えを手伝うのが大変…」と感じていませんか。加齢や病気によって、今まで当たり前にできていたズボンの着脱が難しくなることは少なくありません。ご本人にとっては自立への不安、介護するご家族にとっては毎日の負担となり、切実な悩みになりがちです。
しかし、なぜズボンが上げられないのか原因を理解し、少しの工夫を取り入れるだけで、その悩みは大きく軽減できます。この記事では、高齢者がズボンを上げられない原因から、履きやすいズボンの選び方、便利な自助具、介助のコツまでを分かりやすく解説します。ぜひ参考にして、毎日の着替えを楽にしてください。
高齢者がズボンを上げられないのはなぜ?考えられる5つの原因
ズボンの上げ下ろしが困難になる背景には、身体能力や認知機能の変化が関係しています。ご本人やご家族がその理由を理解することで、最適な対策を見つける第一歩になります。ここでは、主な5つの原因について見ていきましょう。
1. 筋力の低下
ズボンを引き上げるためには、腕や背中、足腰など全身の筋力が必要です。年齢と共にこれらの筋力が低下すると、ズボンを腰まで引き上げる動作が重労働になります。特に、ズボンが太ももやお尻に引っかかった際に、グッと力を入れて引き上げることが難しくなります。日常生活での活動量が減ると筋力はさらに低下しやすいため、注意が必要です。
2. 関節の可動域の制限(肩・股関節など)
肩や肘、股関節、膝などの関節が硬くなり、動かせる範囲(可動域)が狭くなることも大きな原因です。例えば、肩が上がりにくければズボンのウエスト部分に手が届きにくくなりますし、股関節や膝が曲がりにくければ、足を通す動作自体が困難になります。リウマチなどの疾患を抱えている場合も、関節の痛みやこわばりが着替えの妨げとなります。
3. 片麻痺などの病気の後遺症
脳梗塞や脳出血などの後遺症で片麻痺が残ると、身体の片側が動かしにくくなります。片手と片足だけでズボンを履く動作は、バランスを保ちながら行う必要があり、非常に高度な動きです。麻痺した側の足がズボンに引っかかったり、片手だけではウエストをうまく引き上げられなかったりするため、着脱に時間と労力がかかります。
4. バランス能力の低下
立ったままズボンを履こうとすると、片足立ちになる瞬間があります。加齢によりバランス能力が低下していると、その際にふらついてしまい、転倒する危険性が高まります。転倒への恐怖心から、立ったまま着替えることに不安を感じ、ズボンの着脱をためらってしまうケースも少なくありません。安全な環境を整えることが重要になります。
5. 認知機能の低下
認知症が進行すると、ズボンを履くという一連の段取りが分からなくなる「着衣失行」という症状が現れることがあります。衣服を衣服として認識できなかったり、上下左右が分からなくなったりして、着替えそのものを拒否することも。この場合は、身体機能の問題だけでなく、認知機能への理解とサポートが必要不可欠です。
【対策①】履きやすさが重要!高齢者向けズボンの選び方6つのポイント
ズボンの悩みを解決する最も効果的な方法は、身体の状態に合った「履きやすいズボン」を選ぶことです。少し工夫されたズボンに変えるだけで、ご本人の負担が減り、驚くほどスムーズに着脱できるようになります。ここでは、ズボン選びで失敗しないための6つのポイントをご紹介します。
ポイント1:ウエストゴム・脇ゴム仕様を選ぶ
最も重要なポイントは、ウエストがゴム仕様であることです。ボタンやホック、ファスナーの操作は、指先の細かい動きが難しくなると大きな負担になります。ウエストがすべてゴムになっている「総ゴム」タイプなら、力を入れずにかんたんに着脱できます。正面はスッキリ見せたい場合は、両脇だけがゴムになっているタイプもおすすめです。
ポイント2:滑りの良い裏地素材を選ぶ
ズボンに足を通すとき、下着や肌、紙パンツに生地が引っかかると、それ以上引き上げられなくなります。裏地がポリエステルなどの滑りやすい素材でできていると、摩擦が少なくなり、スムーズに足を通すことができます。特に、むくみやすい方や、冬場に厚手の肌着を着る場合は、裏地の滑りやすさを意識して選ぶと良いでしょう。
ポイント3:お尻周りにゆとりのある「おしりスルッとパンツ」
ズボンを引き上げる際に最も引っかかりやすいのが「お尻」の部分です。特に、座った時間が長い方や車椅子を利用している方は、お尻の部分でつかえてしまうことがよくあります。介護用に開発された「おしりスルッとパンツ」は、後方にゆとりを持たせた特殊な設計で、この問題を解決してくれます。介助の際も楽に引き上げられると好評です。
ポイント4:ファスナーやボタンが扱いやすいか
もしデザインの好みなどでファスナー付きのズボンを選ぶ場合は、持ち手部分を確認しましょう。指が引っ掛けやすいリング状のファスナーや、大きめの持ち手になっているものは、握力が弱い方でも扱いやすいです。ボタンも同様に、大きめで厚みのあるものを選ぶと、留めたり外したりする動作が楽になります。
ポイント5:適切なサイズ・丈を選ぶ
サイズが合っていないと、着脱しにくいだけでなく、ずり落ちや転倒の原因にもなります。小さすぎると履くのが大変ですし、大きすぎると歩いているうちに下がってきてしまいます。また、裾が長すぎると足先に引っかけて転倒する危険があるため、股下の長さをしっかり確認しましょう。購入時には必ず試着するか、採寸してから選ぶことが大切です。
ポイント6:おしゃれを楽しめるデザイン
機能性はもちろん大切ですが、本人が「これを履きたい」と思えるような、お気に入りのデザインやカラーを選ぶことも忘れないでください。おしゃれなズボンを履くことは、外出への意欲を高め、気分を前向きにしてくれます。シニア向けのファッションでも、履きやすさとおしゃれを両立した衣料が増えています。本人の好みを尊重して、一緒に選ぶ時間も楽しんでみてください。
【対策②】一人で履けるをサポート!便利な自助具「ズボンエイド」の活用
「自分一人でズボンを履きたい」という気持ちに応えてくれるのが、着替えを助けるための道具「自助具」です。特に、かがむ姿勢が辛い方や、手が足まで届かない方にとって、心強い味方になります。代表的な自助具である「ズボンエイド」についてご紹介します。
ズボンエイドとは?
ズボンエイドとは、長い紐の先についたクリップでズボンのウエスト部分を挟み、手元で紐を引っ張ることでズボンを引き上げる道具です。これを使えば、腰を深く曲げたり、腕を無理に伸ばしたりすることなく、座ったまま楽にズボンを履くことができます。股関節や腰に痛みがある方、片麻痺の方の自立を助けるためによく利用されます。
ズボンエイドの使い方を解説
基本的な使い方はとてもシンプルです。慣れるまで少し練習が必要な場合もありますが、コツを掴めばご自身の力で操作できます。
- 1. 安定した椅子に深く座ります。
- 2. ズボンエイドのクリップを、ズボンのウエスト部分(左右2か所)に挟んで固定します。
- 3. ズボンを床に広げ、片足ずつゆっくりとズボンに足を入れます。
- 4. 左右の紐を交互に、または同時にゆっくりと引き上げ、腰までズボンを上げます。
ズボンエイドの選び方と注意点
ズボンエイドは様々な種類が市販されています。選ぶ際は、クリップ部分が軽い力で開閉できるか、ズボンをしっかり挟めるかを確認しましょう。また、紐の長さがご自身の身長や腕の長さに合っているかも重要です。介護用品の販売店やインターネット通販で購入できます。最初はうまくいかなくても、焦らずゆっくりと試すことが大切です。
【対策③】介助の負担を減らす!ズボンの着替えを楽にする工夫と介助のコツ
ご本人の努力や道具の活用と合わせて、着替えの環境や介助の方法を少し見直すことで、着脱はさらに楽になります。ご本人が一人で着替える場合と、介助者が手伝う場合、それぞれのコツを知っておきましょう。
ご本人だけで着替える際の工夫
安全に、そして体に負担をかけずに着替えるための工夫です。毎日の習慣にすることで、着替えが楽になります。
椅子に座って履く
立ったままズボンを履くのは転倒のリスクがあり危険です。必ず、背もたれと肘掛けのある安定した椅子に座って行いましょう。椅子に座ることで姿勢が安定し、落ち着いて足を通したり、ズボンを引き上げたりすることができます。慌てず、ご自身のペースで行うことが大切です。
ベッドで横になって履く
椅子に座る姿勢が辛い場合は、ベッドを活用するのも一つの方法です。仰向けに寝た状態で片足ずつズボンに通し、お尻を少し浮かせるようにして腰まで引き上げます。腰を大きく曲げる必要がないため、腰痛がある方にも負担の少ない方法です。
介助者が手伝う場合のコツ
ご家族など介助者が手伝う際は、力任せに行うのではなく、いくつかのコツを意識するとお互いの負担が大きく減ります。
基本的な介助方法(脱健着患)
片麻痺がある方の着替えには「脱健着患(だっけんちゃっかん)」という基本原則があります。これは「脱ぐときは健康な側(健側)から、着るときは麻痺のある側(患側)から」という意味です。ズボンを履く(着る)ときは、先に麻痺のある側の足から通すことで、健康な側でバランスを取りやすくなり、スムーズに着替えられます。
安心感を与える声かけの重要性
介助の際は、無言で進めるのではなく、一つひとつの動作を言葉で伝えることが大切です。「これからズボンを履きますね」「右足から通しますよ」といった声かけは、ご本人に心の準備を促し、安心感を与えます。本人の羞恥心にも配慮し、尊厳を守るコミュニケーションを心がけましょう。
ユニクロやしまむらでも買える!高齢者におすすめのズボン
介護用の特別なズボンでなくても、選び方次第では身近な衣料品店でぴったりの一枚を見つけることができます。特に「ユニクロ」や「しまむら」は、機能的で品揃えも豊富なため、高齢者向けのズボン探しにも活用できます。
ユニクロのおすすめズボン
ユニクロでは、伸縮性が高く、ウエストが総ゴム仕様の「イージーパンツ」や「レギンスパンツ」などがおすすめです。素材が柔らかく、動きやすさに配慮されているため、在宅でのリラックスウェアとしても適しています。シンプルなデザインが多く、どんな上着にも合わせやすいのも魅力です。オンラインストアでは丈の補正も可能です。
しまむらのおすすめズボン
しまむらは、幅広い年代に対応した品揃えが特徴です。特に、高齢者向けの衣料品コーナーが充実している店舗も多く、ウエストゴムで股上が深いズボンや、裏起毛で暖かいパンツなどが見つかりやすいです。大きいサイズ(LL以上)の展開も豊富なので、ゆったりとした履き心地を求める方にも対応できます。
購入時に確認したいこと
ユニクロやしまむらでズボンを選ぶ際は、必ずご本人に試着してもらうことが最も重要です。デザインだけで選ばず、以下の点を確認しましょう。
- ウエストゴムの伸縮性(きつすぎないか、緩すぎないか)
- 生地の滑りやすさや肌触り
- お尻や太もも周りのゆとり
- 股下の長さが適切か
これらの点をチェックすることで、日常的に履きやすい、お気に入りの一着が見つかるはずです。
まとめ:原因に合った対策で、ズボンの悩みを解消しましょう

高齢者がズボンを上げられないという悩みは、単なる動作の問題ではなく、ご本人の自尊心やご家族の生活にも深く関わっています。その原因は、筋力低下や関節の制限、病気の後遺症など様々です。
しかし、解決策も一つではありません。
- 身体の状態に合った「履きやすいズボン」を選ぶこと
- 「ズボンエイド」のような便利な自助具を試してみること
- 椅子に座るなど、安全な着替えの工夫をすること
これらの対策を組み合わせることで、悩みはきっと解消できます。大切なのは、ご本人が「これならできそう」と思える方法を、周りがサポートしながら一緒に見つけていくことです。この記事が、快適な毎日を取り戻す一助となれば幸いです。
「高齢者のズボン着脱」に関するよくある質問
片麻痺の場合、トイレでのズボンの上げ下ろしはどうすればいいですか?
トイレに手すりがある場合は、健康な側の手で手すりにしっかりつかまり、身体を安定させることが最優先です。その上で、同じく健康な側の手でズボンのウエスト部分を掴み、ゆっくりと上げ下ろしします。便座に座ったまま、麻痺のある側、健康な側の順に片方ずつ足からズボンを抜いたり、履いたりする方法も比較的安全に行えます。
手が不自由(リウマチなど)でも扱いやすいズボンはありますか?
はい、あります。指先に力が入りにくい、関節が痛むといった場合は、ボタンやファスナーが一切ない「総ゴム」タイプのズボンが最もおすすめです。もしファスナーがあるズボンを履きたい場合は、持ち手部分にキーホルダーのリングのような大きな輪を取り付けると、指を引っ掛けて楽に開閉できるようになります。ぜひ試してみてください。
ズボンがずり落ちてしまう場合はどうすればいいですか?
ズボンがずり落ちる主な原因は、サイズが合っていないか、ウエストのゴムが緩くなっていることです。まずは、ご本人の現在のウエストサイズに合ったズボンかを確認しましょう。また、座っている時間が長いとお腹周りが痩せてくることもあります。その場合は、ベルトをするのが難しくても、クリップで留めるタイプの「サスペンダー」を利用すると簡単に解決できます。
介護用のズボンはどこで買えますか?
「おしりスルッとパンツ」に代表されるような介護に特化したズボンは、介護用品を専門に扱う店舗や、カタログ・インターネット通販で購入するのが一般的です。最近では、大手スーパーや「しまむら」などの衣料品店でも、シニア向け・介護向けコーナーで機能性の高いズボンを取り扱っている場合があります。お近くの店舗で探してみるのも良いでしょう。