年金の繰り下げ受給には増額という大きなメリットがありますが、その裏には思わぬ落とし穴が潜んでいます。「本当に繰り下げて大丈夫?」「後から後悔しないか?」と、決断を前に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、年金繰り下げで後悔する前に知っておくべき5つのデメリットを徹底解説します。ご自身の状況と照らし合わせ、最適な選択をするための判断基準が明確になるので、ぜひ最後までご覧ください。
年金の繰り下げ受給とは?基本をおさらい

年金の繰り下げ受給は、本来65歳から受け取る老齢年金を66歳以降75歳までの間に遅らせて受け取る制度です。受け取りを遅らせることで、年金額が1ヶ月あたり0.7%ずつ増額されるのが最大のメリットです。
この制度を上手に活用すれば、生涯にわたって増額された年金を受け取ることができ、老後の生活に大きな安心感をもたらします。ただし、仕組みを正しく理解しないと、かえって損をしてしまう可能性もあるため注意が必要です。
繰り下げ受給で年金額はどれくらい増えるか
繰り下げ受給を選択すると、年金額は1ヶ月あたり0.7%ずつ増えていきます。例えば、1年間(12ヶ月)繰り下げると8.4%(0.7%×12ヶ月)の増額です。最大で75歳まで繰り下げた場合、増額率は42%(0.7%×60ヶ月)にもなります。
この増額率は生涯変わることがないため、長生きすればするほど受け取る総額は大きくなります。具体的な金額は、ご自身の年金見込額を使って計算シュミレーションをしてみると、よりイメージが湧きやすいでしょう。
繰り上げ受給との違いをわかりやすく比較
繰り下げ受給とは反対に、年金を65歳より前に受け取ることを「繰り上げ受給」と言います。こちらは受け取りを1ヶ月早めるごとに年金額が0.4%(2022年4月以降)ずつ減額され、その減額率は生涯続きます。
つまり、早く受け取るか、遅く受け取るかで将来の年金額が大きく変わるということです。どちらが良いかは一概には言えず、それぞれのメリット・デメリットを理解する必要があります。繰り上げ受給のデメリットについても確認し、慎重に判断しましょう。
| 繰り下げ受給 | 繰り上げ受給 | |
|---|---|---|
| 受給開始年齢 | 66歳~75歳 | 60歳~64歳 |
| 年金額の変動 | 1ヶ月あたり0.7%増額 | 1ヶ月あたり0.4%減額 |
| 最大変動率 | 42%増額(75歳開始) | 24%減額(60歳開始) |
繰り下げ受給を選択している人の割合
厚生労働省の統計によると、繰り下げ受給を選択している人の割合はまだ少数派です。令和4年度末のデータでは、老齢基礎年金の受給権者のうち繰り下げを選択したのは約1.7%、老齢厚生年金では約1.2%に留まっています。
しかし、年金制度への関心の高まりや、働く高齢者の増加に伴い、繰り下げ受給を選択する人は年々増加傾向にあります。メリットだけでなく、この後解説するデメリットも正しく理解した上で、自分に合った選択をすることが重要です。
後悔する前に知るべき5つのデメリット

年金額が増えるという大きなメリットがある繰り下げ受給ですが、見逃せないデメリットも存在します。これらは「罠」とも言える重要なポイントであり、知らずに選択すると「こんなはずではなかった」と大損してしまう可能性があります。
ここでは、特に注意すべき5つのデメリットを具体的に解説します。税金の問題から、家族に関わることまで、ご自身の状況に当てはめて、後悔のない選択をするための知識を身につけましょう。
①税金や社会保険料の負担が増加する
繰り下げによって年金額が増えると、それに伴い所得税や住民税の負担も増加します。年金は雑所得として課税対象になるため、額面が増えても手取りの増加率はそれほど大きくならないケースがあるのです。
さらに、国民健康保険料や介護保険料も、前年の所得を基に計算されるため、負担が増加します。年金繰り下げで税金が増えることは、手取り額を考える上で非常に重要なポイントなので、必ず覚えておきましょう。
②加給年金や振替加算が支給停止になる
厚生年金に20年以上加入している方が、年下の配偶者や子を扶養している場合に支給される「加給年金」は、年金の家族手当とも言われるものです。しかし、厚生年金を繰り下げている間は、この加給年金が支給停止になってしまいます。
また、加給年金の対象となっていた配偶者が65歳になると、配偶者自身の基礎年金に上乗せされる「振替加算」も、夫が繰り下げ待機中だと受け取れません。対象となる家族がいる場合は、大きなデメリットとなり得ます。
③長生きしないと受給総額で損をする
繰り下げ受給は長生きするほど得になる制度ですが、裏を返せば、早くに亡くなってしまうと損をするリスクがあります。65歳から受け取り始めた場合と比較して、繰り下げた場合の総受給額が上回るには、一定の期間が必要です。
この損益分岐点に到達する前に亡くなった場合、結果的に受け取る年金の総額は少なくなってしまいます。ご自身の健康状態や平均余命などを考慮し、本当にメリットがあるのか慎重に判断することが求められます。
④障害年金や遺族年金が受給できない
繰り下げ待機中、つまり65歳から年金を受け取らずにいる間に、病気やケガで障害状態になったり、亡くなったりする可能性もゼロではありません。この場合、繰り下げによる増額が適用された障害年金や遺族年金は受け取れません。
障害年金や遺族年金を受け取るには、繰り下げ請求をせずに、65歳時点に遡って本来の年金を請求する形になります。万が一の事態が起きた場合、増額のメリットは享受できないという点を覚えておく必要があります。
⑤在職中は年金が支給停止される場合も
60歳以降も厚生年金に加入しながら働いていると、給与や賞与の額に応じて年金の一部または全部が支給停止される「在職老齢年金制度」があります。この制度は、繰り下げ待機期間中にも適用される点に注意が必要です。
せっかく年金額が増える繰り下げを選択しても、ご自身の収入が高い場合、増額分が支給停止で相殺されてしまう可能性があります。特に高収入の方は、繰り下げのメリットが薄れる可能性があることを理解しておきましょう。
あなたはどっち?繰り下げ受給の判断基準

ここまで解説したデメリットを踏まえ、ご自身が繰り下げ受給に向いているのかどうかを判断する基準を考えていきましょう。大切なのは、メリットとデメリットを天秤にかけ、総合的に判断することです。
健康状態、経済状況、家族構成など、人それぞれ状況は異なります。ここでは「得する人」と「損する人」のそれぞれの特徴をまとめました。ご自身のライフプランと照らし合わせながら、最適な選択を見つけてください。
繰り下げ受給で得する人の特徴とは
繰り下げ受給でメリットを最大限に享受できるのは、一言で言えば「健康で、経済的に余裕がある方」です。長生きすることで、増額された年金の恩恵を長く受けられます。具体的な特徴を以下にまとめました。
ご自身の状況がこれらに当てはまるか確認してみましょう。特に、繰り下げ待機中の生活費を年金以外で確保できるかは重要なポイントです。
- 健康に自信があり、長生きが見込まれる人
- 繰り下げ期間中の生活費を賄える十分な貯蓄や収入がある人
- 扶養している年下の配偶者や子がいない(加給年金の対象外の)人
- 自営業者など、厚生年金に加入していない人
繰り下げ受給で損する人の特徴とは
一方で、繰り下げ受給を選択するとかえって損をしてしまう可能性がある方もいます。特に、健康面に不安があったり、経済的な余裕がなかったりする場合は、65歳から確実に年金を受け取る方が賢明かもしれません。
以下のような特徴に当てはまる方は、繰り下げ受給の選択を慎重に検討する必要があります。特に加給年金の対象となる方は、年間約40万円の支給が停止されるため、影響が大きくなります。
- 持病があるなど、健康状態に不安がある人
- 65歳以降の生活費を年金に頼る必要がある人
- 扶養している年下の配偶者がいる(加給年金の対象となる)人
- 年金収入が多く、税金や社会保険料の負担増が懸念される人
何歳で元が取れる?損益分岐点を解説
繰り下げ受給を検討する上で気になるのが「何歳まで生きれば元が取れるのか」という損益分岐点です。これは、65歳から受給を開始した場合の総額を、繰り下げ受給の総額が上回る年齢のことを指します。
計算は少し複雑ですが、一般的に繰り下げを開始した年齢から約11年10ヶ月後が損益分岐点の目安とされています。例えば70歳から受給を開始した場合、81歳10ヶ月を超えて長生きすれば、65歳から受給するよりも総額が多くなります。
専業主婦や女性が注意したいポイント
女性は男性よりも平均寿命が長いため、繰り下げ受給のメリットを受けやすいと考えられます。しかし、特に専業主婦の方などが注意したいポイントがあります。それは、夫が受け取る加給年金との関係性です。
前述の通り、夫が厚生年金を繰り下げると、その間は加給年金が支給されません。また、ご自身の年金を繰り下げている間に、夫の死亡により遺族厚生年金の受給権が発生した場合、選択によっては繰り下げのメリットがなくなることもあります。
繰り下げ受給の手続きと変更について

繰り下げ受給の制度は複雑に感じるかもしれませんが、手続き自体はそれほど難しくありません。また、「一度決めたら変更できないのでは?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、途中で考えを変えることも可能です。
ここでは、具体的な申請方法や、途中で繰り下げをやめる場合の手続きについて解説します。いざという時のために、柔軟な対応ができることを知っておくと、より安心して制度を検討できるでしょう。
繰り下げ受給の具体的な申請方法
繰り下げ受給の特別な事前申請は不要です。65歳で年金を受け取るための「年金請求書」を提出せず、66歳以降の受け取りたいタイミングで「老齢年金請求書(繰下げ請求用)」を年金事務所に提出します。
つまり、65歳で手続きをしなければ自動的に繰り下げ待機状態になります。請求書は、受け取りを開始したい誕生月の翌月に日本年金機構から送付されますが、電話で取り寄せることも可能です。手続き自体はシンプルなので安心してください。
繰り下げを途中でやめることはできるか
繰り下げ待機中に、「やはり65歳から年金を受け取りたい」と考えが変わることもあるでしょう。その場合、いつでも繰り下げ待機をやめて、年金の受給を開始できます。その時点での増額率が適用された年金を受け取ることになります。
また、過去に遡って年金を受け取る「一括受給」も選択できます。ただし、この場合は繰り下げによる増額は適用されず、65歳時点の本来の年金額で計算される点に注意が必要です。柔軟にやめる手続きができるのは安心材料です。
基礎年金と厚生年金を分けて繰り下げる方法
繰り下げ受給は、老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金の両方もしくは片方だけを選択することが可能です。これにより、より柔軟なライフプランニングが実現できます。
例えば、在職中で厚生年金が支給停止される可能性がある場合、厚生年金は65歳から受け取り、基礎年金だけを繰り下げて将来のために増やす、といった戦略が考えられます。ご自身の働き方や収入に合わせて最適な組み合わせを検討しましょう。
まとめ:デメリット理解で後悔ない選択を

年金の繰り下げ受給は、老後資金を増やす有効な手段ですが、税負担の増加や加給年金の停止、早期死亡のリスクなど、多くのデメリットも存在します。これらのデメリットを正しく理解することが、後悔のない選択への第一歩です。
ご自身の健康状態や経済状況、家族構成などを総合的に考慮し、メリットがデメリットを上回るかを慎重に判断しましょう。この記事で解説した判断基準を参考に、あなたにとって最適な年金の受け取り方を見つけてください。
年金繰り下げ受給のよくある質問

年金を繰り下げるなら何歳からがお得?
何歳からがお得かは、一概には断定できません。損益分岐点だけを考えれば、70歳から受け取ると約82歳、75歳からだと約87歳で元が取れる計算になりますが、これはあくまで平均的なデータに基づいたものです。
最も大切なのは、ご自身の健康状態や貯蓄額、そしてどのような老後を送りたいかというライフプランです。数字上の損得だけでなく、安心して生活できるかを基準に、ご自身にとって最適な開始年齢を判断してください。
繰り下げ受給の最大のデメリットは税金?
税金や社会保険料の負担増は、手取り額に直結する大きなデメリットです。しかし、最大のデメリットは人によって異なります。例えば、年下の配偶者がいる方にとっては加給年金の支給停止が最も大きな損失になるでしょう。
また、健康に不安がある方にとっては、損益分岐点に到達する前に亡くなってしまうリスクが最大の懸念点となります。ご自身の状況を客観的に見て、どのデメリットが最も影響が大きいかを考えることが重要です。
繰り下げ受給が向いているのはどんな人?
繰り下げ受給が向いているのは、主に「健康で長生きする自信がある方」と「繰り下げ待機中の生活費に困らない方」です。十分な貯蓄や年金以外の収入源が確保できていることが前提となります。
また、扶養する年下の配偶者がいない方や、自営業で厚生年金の加入期間が短い方も、デメリットの影響が比較的小さいため、繰り下げ受給を検討しやすいと言えるでしょう。年金繰り下げ受給が向いている人は、これらの条件を満たす方です。
基礎年金だけを繰り下げるメリットは?
基礎年金と厚生年金を分けて繰り下げられるため、柔軟な計画が立てられます。特に、65歳以降も働き続け、在職老齢年金制度で厚生年金がカットされる可能性がある方にとって、基礎年金だけの繰り下げは有効な選択肢です。
厚生年金は65歳から受け取って生活費の足しにしつつ、在職老齢年金の影響を受けない基礎年金は75歳まで繰り下げて確実に増やす、といった戦略が可能です。これにより、リスクを抑えながら将来の受給額を増やすことができます。
繰り下げの申請を忘れるとどうなる?
繰り下げの請求は、75歳の誕生日を迎えるまでに行う必要があります。もし75歳を過ぎても請求を忘れていると、増額率は75歳時点の42%で固定され、それ以上は増えません。
さらに注意が必要なのは、年金の時効です。年金を受け取る権利は5年で時効になります。そのため、80歳になってから請求した場合、75歳から80歳までの5年分しか受け取れず、それ以前の分は時効で消滅してしまうため注意しましょう。