親の物忘れが増え、銀行での手続きが難しくなってきたと感じていませんか。もし認知症と診断され、その事実が銀行に伝わると、大切な親の口座が凍結されてしまう可能性があります。そうなると、生活費や医療費の引き出しができなくなり、日々の暮らしに大きな支障をきたしかねません。
この記事では、口座凍結が起きる仕組みから、凍結前にできる4つの対策、そして万が一凍結された場合の対処法までを詳しく解説します。親の財産を守り、ご家族が安心して生活を支えるための知識が身につきますので、ぜひ最後までご覧ください。
認知症の親の口座が凍結される前にすべきこと

認知症によって親の判断能力が低下すると、銀行は預金を守るために口座を凍結します。これは、詐欺被害や親族による無断の引き出しを防ぐための措置です。一度凍結されると、解除には法的な手続きが必要となり、時間も費用もかかります。
ここでは、口座が凍結される具体的な状況や、生活に及ぼす影響、そして家族が安易に預金を引き出すことの法的リスクについて解説します。まずは現状を正しく理解し、最悪の事態を避けるための知識を身につけましょう。
銀行が認知症を判断する5つの瞬間
銀行は医師ではないため、医学的な診断を下すことはありません。しかし、窓口でのやり取りを通じて、口座名義人の判断能力に疑問符が付くと、取引を停止する措置を取ることがあります。特に注意すべきは、本人の言動に一貫性がない場合です。
具体的には、以下のような状況で銀行は認知症の可能性を判断します。これらの兆候が見られたら、早めの対策が必要なサインかもしれません。
- 何度も同じ質問を繰り返したり、話が噛み合わなかったりする
- 自分の名前や生年月日を正確に書けない
- 暗証番号を何度も間違えたり、忘れてしまったりする
- 取引の内容を理解しておらず、家族が代わりに答えようとする
- 高額な出金理由が曖昧で、詐欺を疑わせる言動がある
口座凍結でできなくなることと生活への影響
親の口座が凍結されると、その口座からの現金引き出しや振り込み、定期預金の解約といった一切の取引ができなくなります。これにより、日々の生活費はもちろん、急な医療費や介護施設の費用が支払えなくなるなど、深刻な事態に陥る可能性があります。
ただし、家賃や公共料金などの自動引き落としは、凍結後も継続されるケースが多いです。とはいえ、残高不足になれば引き落としも止まってしまうため、根本的な解決にはなりません。生活基盤を揺るがす前に、対策を講じることが不可欠です。
家族が無断で預金を引き出す法的リスク
親の生活費のためであっても、子どもが勝手に親のキャッシュカードを使って預金を引き出す行為は、法的に大きな問題をはらんでいます。親の意思が確認できない状態での出金は、他の相続人から「使い込み」を疑われ、トラブルに発展する可能性があります。
場合によっては、窃盗罪や横領罪といった刑事罰の対象になることもゼロではありません。親を思う気持ちが、かえって家族関係を壊す原因にならないよう、必ず正式な手続きを踏むようにしましょう。
認知症になる前にできる4つの銀行口座管理対策

親の判断能力がはっきりしているうちに対策を講じておけば、将来の口座凍結という事態を未然に防ぐことが可能です。認知症が進行してからでは、選択肢が限られてしまいます。元気なうちにこそ、将来の財産管理について話し合うことが重要です。
ここでは、比較的簡単な手続きで始められるものから、法的な裏付けを持つ制度まで、状況に合わせて選べる4つの対策をご紹介します。ご家族にとって最適な方法を見つけるための第一歩として、それぞれの特徴を理解しましょう。
対策1:代理人カードで日常の支払いを円滑に
代理人カードは、口座名義人本人に代わって家族が入出金や振込を行えるようにするものです。銀行の窓口で手続きができ、比較的簡単に発行してもらえます。日常的な生活費の管理など、少額のやり取りには非常に便利な手段と言えるでしょう。
しかし、代理人カードでできることはATMでの操作など限定的で、定期預金の解約や大きな金額の取引はできません。また、ゆうちょ銀行の代理人カードなど、金融機関によってサービス内容が異なる点にも注意が必要です。あくまで緊急時や日常使いのための対策と捉えましょう。
対策2:任意後見制度で将来の代理人を決める
任意後見制度とは、本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した際に備えて、財産管理や身上監護を任せる「任意後見人」をあらかじめ契約によって決めておく制度です。公証役場で公正証書を作成することで、法的な効力を持たせることができます。
本人の意思に基づいて代理人を選べるため、信頼できる家族に任せたい場合に最適です。本人の希望を尊重した財産管理を実現できる点が最大のメリットですが、家庭裁判所の監督下に置かれるため、一定の制約も伴います。
対策3:家族信託で柔軟な財産管理を実現する
家族信託は、親(委託者)が元気なうちに、信頼できる子ども(受託者)との間で信託契約を結び、財産の管理や処分を任せる仕組みです。契約内容を自由に設計できるため、成年後見制度よりも柔軟な財産管理が可能になります。
例えば、不動産の売却や積極的な資産活用なども、契約の範囲内であれば受託者の判断で行えます。認知症になった後も口座凍結を回避し、円滑な資産承継を実現できる非常に有効な手段として注目されています。
対策4:日常生活自立支援事業の利用を検討
日常生活自立支援事業は、認知症や知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が不十分な方を対象とした、市区町村の社会福祉協議会が実施する福祉サービスです。専門の支援員が、預金の出し入れや公共料金の支払いなどを支援してくれます。
この制度は、あくまで日常的な金銭管理の「手伝い」が中心です。不動産の売却といった法律行為は行えません。身近に頼れる家族がいない場合や、少額の金銭管理に不安がある場合に有効な選択肢となるでしょう。
口座凍結後に唯一できる法定後見制度とは

もし事前対策が間に合わず、親の口座が凍結されてしまった場合、その口座を動かすための唯一の法的な手段が「法定後見制度」です。この制度は、すでに判断能力が不十分になった方のために、家庭裁判所が援助者(成年後見人など)を選任するものです。
選任された成年後見人は、本人の代理人として預金の引き出しや契約行為が可能となり、凍結された口座を管理できるようになります。最後の手段ではありますが、本人の財産を守るための重要なセーフティネットと言えます。
法定後見制度の手続きの流れと注意点
法定後見制度を利用するには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行う必要があります。申立てができるのは、本人や配偶者、四親等内の親族などです。申立て後、家庭裁判所による調査や審問を経て、後見人が選任されるまで通常3〜4ヶ月程度かかります。
手続きには、申立手数料や登記手数料、医師の診断書などの費用が必要です。また、一度制度の利用を開始すると、本人が亡くなるまで原則としてやめることはできません。申立ては慎重に検討する必要があります。
| 手順 | 内容 | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 1. 相談・準備 | 家庭裁判所や専門家に相談し、必要書類(診断書、戸籍謄本など)を準備する | 1ヶ月~ |
| 2. 申立て | 必要書類を揃えて家庭裁判所に申立てを行う | - |
| 3. 調査・審理 | 裁判所の調査官による面談や、本人の精神鑑定などが行われる | 1~2ヶ月 |
| 4. 審判・後見人選任 | 家庭裁判所が後見開始の審判を下し、成年後見人を選任する | 1ヶ月程度 |
| 5. 財産管理開始 | 選任された後見人が、財産目録を作成し、口座凍結解除の手続きなどを行う | - |
成年後見人を選任するメリットとデメリット
成年後見人を選任する最大のメリットは、法的な権限を持って本人の財産を管理・保護できる点です。凍結された口座の解除手続きはもちろん、不動産の売却や介護サービスの契約なども本人に代わって行えるようになり、生活の安定が図れます。
一方でデメリットとして、親族が後見人に選ばれるとは限らず、弁護士などの専門家が選任される場合があることです。その場合、専門家への報酬が継続的に発生します。また、財産は本人のためにしか使えず、家庭裁判所への定期的な報告義務も生じます。
口座管理の悩みを解決する専門家への相談

認知症の親の口座管理は、法律や税金が絡む複雑な問題です。家族だけで抱え込まず、早い段階で専門家に相談することが、トラブルを未然に防ぎ、最善の解決策を見つけるための鍵となります。専門家は、各家庭の状況に合わせた的確なアドバイスを提供してくれます。
どの専門家に相談すればよいのか、また家族間で何を話し合っておくべきなのかを知ることで、具体的な行動に移しやすくなります。一人で悩まず、専門知識を持つ第三者の視点を取り入れることが重要です。
相談できる専門家とそれぞれの役割
財産管理の相談ができる専門家には、弁護士、司法書士、行政書士などがいます。それぞれの専門家には得意分野があるため、相談したい内容に応じて適切な相手を選ぶことが大切です。例えば、家族信託なら司法書士、法的なトラブルが予想されるなら弁護士が適しています。
どの専門家に相談すべきか迷った場合は、まずはお住まいの地域の地域包括支援センターや法テラスに問い合わせてみるのも良いでしょう。最適な専門家への生前の相談方法を見つけることが、問題解決への近道です。
- 弁護士:法律全般の専門家。家族信託や後見制度の手続き、相続トラブルなど幅広く対応可能。
- 司法書士:登記の専門家。家族信託の契約書作成や不動産登記、後見制度の申立書類作成が得意。
- 行政書士:官公署に提出する書類作成の専門家。任意後見契約の公正証書作成などをサポート。
- 税理士:税金の専門家。生前贈与や相続に関する税務相談に対応。
トラブルを避けるために家族で話し合うこと
どんな対策を取るにしても、最も大切なのは家族間での十分な話し合いです。親が元気なうちに、将来の財産管理や介護についてどう考えているのか、その意向をしっかりと聞いておきましょう。親の希望を尊重することが、後のトラブルを避ける上で不可欠です。
また、誰が中心となって管理するのか、兄弟姉妹間での役割分担を明確にしておくことも重要です。話し合った内容は、エンディングノートに記しておくと、全員の共通認識となり安心です。オープンな対話が、家族の絆を守ります。
まとめ:認知症の口座管理は事前の準備が重要

認知症による親の口座凍結は、ある日突然訪れる可能性があります。生活費や医療費が引き出せなくなる事態を避けるためには、親の判断能力がはっきりしているうちの事前準備が何よりも重要です。任意後見や家族信託など、選択肢はいくつかあります。
まずはこの記事を参考に、ご自身の家庭状況に合った対策は何かを検討し、家族で話し合う機会を設けてみてください。早めに生前の準備スケジュールを立てて行動することが、親とご自身の未来を守ることに繋がります。また、遺言書キットで意思を残すことも一つの方法です。
認知症の親の口座管理でよくある質問

親が認知症になったら銀行口座はどうなりますか?
親が認知症になり、その事実を銀行が把握した場合、預金者の財産を保護する目的で口座は凍結されます。これは、本人の判断能力低下に乗じた詐欺や、家族による不適切な引き出しを防ぐための措置です。一度凍結されると、原則として入出金や振込などの取引は一切できなくなります。
凍結を解除するには、家庭裁判所に申立てを行い、成年後見人を選任してもらう必要があります。成年後見人が法的な代理人として銀行手続きを行うことで、再び口座を動かせるようになります。
認知症の親の貯金を引き出す方法はありますか?
口座が凍結される前であれば、「代理人カード」を作成しておくことで、家族がATMでの引き出しを行えます。ただし、利用できる金額には上限がある場合が多いです。凍結されてしまった後、法的に認められた唯一の方法は「成年後見制度」を利用することです。
家庭裁判所で選任された成年後見人が、本人の代わりに預貯金の管理を行います。家族が無断でキャッシュカードを使って引き出す行為は法的なリスクを伴うため、絶対に避けるべきです。
認知症の事実が銀行に知られるのはなぜですか?
銀行は、日常的な窓口業務の中で口座名義人の変化に気づくことがあります。例えば、来店した本人の言動がおかしい、何度も同じことを質問する、書類にうまく署名できない、といった状況から判断能力の低下を察知します。これが「認知症 銀行 なぜ ばれる」という疑問への答えです。
また、家族が「親が認知症で…」と相談した場合や、成年後見制度の利用を開始した場合にも銀行に情報が伝わります。銀行には預金者保護の義務があるため、疑いがあれば取引を停止する対応を取るのです。
施設に入所した親の通帳は誰が管理しますか?
親が介護施設に入所した場合の通帳管理は、非常にデリケートな問題です。理想的なのは、事前に任意後見契約や家族信託契約を結んでおき、正式な権限を持つ代理人が管理することです。そのような準備がない場合、家族の誰かが一時的に預かるケースが多く見られます。
しかし、これは他の親族とのトラブルの原因になりかねません。親の判断能力が低下している場合は、速やかに成年後見制度の利用を検討するのが最も安全な方法と言えます。
親の通帳管理は何歳まで続けるべきですか?
親の通帳管理を始めるべきかどうかの判断は、「年齢」ではなく「判断能力」で決めるべきです。高齢であっても、ご自身でしっかりと金銭管理ができているうちは、無理に家族が介入する必要はありません。本人の自立と尊厳を尊重することが大切です。
しかし、お金の計算が合わなくなったり、不要な高額商品を購入したりするなど、判断能力の低下を示すサインが見られたら注意が必要です。財産を守るためのサポートが必要だと感じた時点で、家族信託や後見制度などの法的な手続きを検討し始めましょう。