
はじめに:認知症の親の徘徊、ひとりで悩んでいませんか?
「少し目を離した隙に、親がどこかへ行ってしまった…」
認知症の症状のひとつである徘徊(はいかい)は、ご家族にとって最も心配な行動のひとつではないでしょうか。ご本人の安全はもちろん、探すご家族の精神的・身体的な負担は計り知れません。
そんな大きな不安を解消する手段として、GPS(位置情報サービス)端末の活用が注目されています。しかし、GPS端末を持つのを嫌がったり、失くしてしまったりと、継続して身に着けてもらうのは難しいもの。そこでおすすめしたいのが「靴につける」タイプのGPSです。
この記事では、なぜ靴につけるGPSが有効なのか、その種類や後悔しないための選び方、費用や介護保険の適用まで、あなたの疑問や不安に寄り添いながら、詳しく解説していきます。
なぜ徘徊対策に「靴につけるGPS」が有効なのか?3つの理由
認知症の徘徊対策として、さまざまなGPS端末が利用されていますが、なぜ「靴につける」タイプが最適なのでしょうか。その理由は、GPSを持たせる上での大きな課題を解決できるからです。ご家族が安心して見守るための3つの大きな利点をご紹介します。
理由1:本人が意識せず、自然に身に着けられる
認知症の方の中には、監視されていると感じることに抵抗感を抱く方や、新しい物を持つ習慣がない方もいらっしゃいます。キーホルダーやネックレス、リストバンドなどは、気になって外してしまったり、そもそも身に着けるのを嫌がったりすることも少なくありません。その点、いつも履いている靴であれば、本人が意識することなく、自然な形でGPS端末を携帯してもらえます。
理由2:紛失や置き忘れのリスクが極めて低い
徘徊対策で最も避けたいのは、いざという時にGPS端末を身に着けていないことです。カバンや杖、お守り袋などに入れる方法もありますが、外出時にいつも同じ物を持つとは限りません。置き忘れたり、途中で手放してしまったりする可能性もあります。靴は外出時に必ず履くものであり、途中で脱ぎ捨てる可能性は他の持ち物に比べて極めて低いため、紛失リスクを大幅に軽減できます。
理由3:外出時に必ず履くため、見守りの空白時間が生まれない
「今日はGPSの入ったカバンを持たなかった」「お守りを家に忘れてきてしまった」といった事態を防げるのが、靴につけるGPSの最大の強みです。外出の際には必ず靴を履くため、24時間365日、見守りに空白時間が生まれる心配がありません。これにより、ご家族は「ちゃんとGPSを持って出かけただろうか」という日々の心配から解放され、大きな安心感を得ることができます。
靴につけるGPSはどれがいい?種類とメリット・デメリットを徹底比較
「靴につけるGPS」と一言でいっても、いくつかの種類があります。それぞれに特徴があり、ご本人の状態やご家族の生活スタイルによって最適なものは異なります。ここでは代表的な3つのタイプをご紹介し、それぞれのメリット・デメリットを比較します。
タイプ1:専用シューズ型(GPS内蔵靴)
GPS端末を内蔵するために設計された専用のシューズです。介護シューズやウォーキングシューズとして、履き心地や歩きやすさが考慮されている製品が多く、デザインの選択肢も増えています。
メリットは、購入してすぐに使える手軽さと、端末が靴にしっかり固定されている安心感です。
一方で、価格が比較的高価になることや、その靴しか履けなくなるため、履き潰してしまった際の買い替えが必要になる点がデメリットとして挙げられます。
タイプ2:靴に直接埋め込む加工型
ご本人が日頃から愛用している履き慣れた靴のかかと部分などを加工し、GPS端末を埋め込むサービスです。お気に入りの靴をそのまま使えるため、ご本人が抵抗なく受け入れやすいのが最大の利点です。
メリットは、外見からはGPSの存在が全く分からず、ご本人の尊厳を守れる点です。
デメリットは、加工のために一度靴を預ける必要があり、費用もかかること、そして埋め込んだ端末の充電や交換が難しい場合があることです。
タイプ3:後付け(インソール/タグ)型
GPS端末が内蔵されたインソール(中敷き)や、靴の甲部分や側面に装着する小型のタグです。現在お持ちの靴に入れて使うだけなので、手軽に始められるのが魅力です。
メリットは、複数の靴で使い回せる手軽さと、比較的安価に導入できる点です。インソール型はクッション性を高める効果も期待できます。
デメリットは、靴を履き替える際にGPSを入れ替え忘れる可能性があること、また、インソールはサイズや厚みの確認が必要なことです。
【後悔しない】靴につける認知症GPSの選び方 5つのポイント
ご家族の安心につながるGPS端末は、決して安い買い物ではありません。購入してから「こんなはずではなかった」と後悔しないために、契約前に必ず確認しておきたい5つのポイントを解説します。これらの点を比較検討し、ご自身の家庭に最も合った製品を選びましょう。
ポイント1:位置情報の精度と更新頻度
最も重要な機能が、位置情報の精度です。万が一の際に、誤差が数十メートルもあっては意味がありません。なるべく誤差が少なく、正確な居場所を特定できるかを確認しましょう。また、位置情報が更新される頻度も重要です。「1分ごと」「5分ごと」など、製品によって異なりますが、リアルタイムに近い情報を得たい場合は、更新頻度が高いものを選ぶと安心です。
ポイント2:料金体系(初期費用と月額料金)
GPSの利用には、端末本体の購入代金(初期費用)と、通信回線を利用するための月額料金がかかります。価格だけで選ぶのは危険ですが、継続的に発生する費用なので、無理なく支払えるプランを選びましょう。初期費用が0円でも月額料金が高めなプランや、その逆のプランもあります。オプション機能の料金も確認し、トータルでかかる費用を把握することが大切です。
ポイント3:バッテリーの持続時間と充電の手間
GPS端末は定期的な充電が必要です。バッテリーの持続時間は製品によって大きく異なり、数日で切れるものから1ヶ月以上持つものまで様々です。充電の頻度が少ないほど、ご家族の負担は軽減されます。また、靴から端末を取り出して充電するのか、靴ごと充電器に置くタイプなのかなど、充電方法の手軽さも確認しておくと、日々の管理が楽になります。
ポイント4:使いやすさ(アプリの操作性・Android/iPhone対応)
位置情報を確認するのは、ご家族のスマートフォンになります。専用アプリの画面が見やすいか、操作が直感的で分かりやすいかは非常に重要です。また、お使いのスマートフォン(AndroidかiPhoneか)に対応しているかは必ず確認しましょう。エリア通知やバッテリー低下通知など、必要な機能が備わっているかもチェックポイントです。
ポイント5:サイズと重さ、靴への負担
特に後付け型の場合、GPS端末のサイズと重さは重要です。大きすぎたり重すぎたりすると、ご本人が違和感を覚えて歩きにくさを感じ、その靴を履きたがらなくなる可能性があります。特にインソール型は、靴のサイズに合うか、厚みで履き心地が変わらないかを慎重に確認しましょう。ご本人が快適に歩き続けられることが、徘徊対策の第一歩です。
【タイプ別】靴につける認知症GPSのおすすめサービス・製品
ここでは、ご紹介した3つのタイプ別に、代表的なサービスや製品をご紹介します。それぞれの特徴を理解し、どのタイプがご自身の状況に合っているか検討してみてください。※料金やサービス内容は変更される場合があるため、必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
【専用シューズ型】歩きやすさと機能性を両立したモデル
代表的な製品に「iTSUMO(いつも)専用シューズ」があります。これはGPS端末「iTSUMO」を入れるために開発された靴で、介護の現場の声をもとに作られています。かかとではなく足の甲部分に端末を入れることで、歩行時の違和感や端末の故障リスクを軽減する工夫がされています。トレッキングシューズのノウハウを活かした歩きやすさと、軽量設計が魅力です。
【埋め込み型】いつも履いているお気に入りの靴で対策できるサービス
「魔法の靴」は、現在使用している靴を預かり、GPS端末を靴底に埋め込んでくれるサービスです。外見からは一切わからず、ご本人が最も履き慣れた靴をそのままGPSシューズにできるのが最大のメリット。婦人靴や紳士靴、介護シューズなど、様々なタイプの靴に対応しています。履き慣れた靴へのこだわりが強い方には最適な選択肢と言えるでしょう。
【後付け型】手軽に始められて複数の靴で使えるモデル
インソール型やタグ型のGPSは、様々なメーカーから提供されています。例えば、インソール型のGPSは、既存の靴の中敷きと交換するだけで利用可能です。タグ型の小型GPS端末は、靴紐やマジックテープ部分に取り付けることができます。初期費用を抑えて手軽に始めたい方や、季節に合わせて複数の靴を履き替える方に適しています。
靴が難しい場合に検討したい|キーホルダーや衣服につけるGPS
どうしても靴への装着が難しい場合や、他の対策と併用したい場合には、靴以外のGPS端末も有効な選択肢となります。それぞれの特徴を理解しておきましょう。
キーホルダー・お守り型
小型のGPS端末をキーホルダーやお守り袋に入れて、カバンや杖、ベルトのループなどに付けてもらう方法です。日本製で高性能な小型端末も多く、選択肢が豊富です。ただし、前述の通り、付け忘れたり、外出の途中でカバンを置き忘れたりするリスクは常に考慮する必要があります。
衣服に貼るシール・ボタン型
衣類の洗濯表示タグなどにアイロンで貼り付けるシールタイプや、ボタン型のGPS端末もあります。肌着など、毎日身に着けるものに付ければ、携帯し忘れる心配は少なくなります。ただし、洗濯のたびに付け替える手間や、バッテリー充電の手間がかかる点がデメリットです。リストバンド型も同様に、本人が気にして外してしまう可能性があります。
要チェック!靴につけるGPSは介護保険の対象になる?
GPS端末の利用には費用がかかるため、介護保険が使えるかどうかは非常に気になるところです。結論から言うと、条件付きで介護保険の対象となる場合があります。正しい知識を身につけておきましょう。
GPSは「徘徊感知機器」としてレンタル対象になる場合がある
GPS端末は、介護保険制度における福祉用具貸与(レンタル)の対象品目である「認知症老人徘徊感知機器」に分類されます。これにより、要介護認定を受けている方は、費用の1割~3割の自己負担でGPS端末をレンタルできる可能性があります。ただし、すべてのGPS端末が対象ではなく、自治体やケアマネジャーの判断によっても異なります。
介護保険を利用する際の手順と注意点
介護保険の利用を希望する場合は、まず担当のケアマネジャーに相談しましょう。利用者の心身の状況や生活環境から、GPSの利用が必要だと判断されれば、ケアプランに組み込んでもらえます。注意点として、介護保険で購入できるのは福祉用具の「購入」対象品目のみで、徘徊感知機器は「レンタル」の対象です。そのため、GPS端末の購入費用は保険適用外となるのが一般的です。
購入前に確認!GPSを上手に活用するための3つの注意点
最適なGPS端末を選んで契約が済んでも、それで終わりではありません。実際に使い始めてから「困った」とならないよう、上手に活用していくための3つの注意点を確認しておきましょう。
注意点1:定期的な充電管理を忘れずに
GPS端末は、充電が切れてしまえばただの箱です。いざという時に機能しない事態を防ぐため、バッテリーの残量管理は最も重要です。家族内で「充電は〇曜日にする」といったルールを決めたり、スマートフォンのリマインダー機能を活用したりして、充電忘れを防ぐ工夫をしましょう。バッテリー残量が少なくなると通知が来る機能は必須です。
注意点2:GPSの電波が届きにくい場所を把握しておく
GPSは衛星からの電波を利用して位置を特定するため、地下街やトンネル、建物の中などでは正確な位置が分からなくなることがあります。これはどのGPS端末にも共通する特性です。あらかじめ、自宅周辺や本人がよく行く場所で、電波が届きにくい場所を把握しておくと、万が一の際に慌てずに対処できます。
注意点3:本人への伝え方とプライバシーへの配慮
GPSを持つことについて、ご本人の理解が得られる状態であれば、目的を丁寧に説明することが望ましいです。「あなたを心配している家族が安心するためのお守りだよ」といった、本人の自尊心を傷つけない言葉で伝える工夫が大切です。プライバシーの問題は非常にデリケートなため、ご家族内でGPSの情報を誰がどのように管理するのか、事前にルールを決めておくことも重要です。
まとめ:最適なGPSを選んで、家族みんなの安心な毎日へ

認知症の親が徘徊するかもしれないという不安は、ご家族の心に重くのしかかります。しかし、適切な対策を講じることで、その不安は大きく軽減できます。中でも「靴につけるGPS」は、ご本人に負担をかけることなく、ご家族が安心して見守るための非常に有効な手段です。
この記事でご紹介した「GPSの種類」「選び方のポイント」「介護保険の知識」を参考に、ご自身の家庭に最適な一台を見つけてください。信頼できるGPS端末という「お守り」が、行方不明のリスクから大切なご家族を守り、穏やかな日常を取り戻すための大きな助けとなるはずです。
「認知症の徘徊とGPS」に関するよくある質問
認知症の家族にGPSをどうやって持たせればいいですか?
A. 最も確実なのは、本人が意識せずに身に着けられる方法です。この記事で紹介した「靴につける」タイプは、外出時に必ず履くため、持たせ方の工夫がほとんど必要なく、最もおすすめできる方法です。キーホルダーやお守り袋に入れる場合は、本人が愛着を持っているカバンや杖などに付けると、携帯してもらいやすくなります。
認知症GPSの料金(初期費用・月額)はどれくらいかかりますか?
A. 料金は製品やプランによって様々です。初期費用として端末代金が1万円~3万円程度、月額料金が500円~2,000円程度が相場です。初期費用が無料で月額料金に含まれるプランもあります。利用したい機能やサポート内容と、費用のバランスを考えて選ぶことが重要です。
GPS端末の利用は介護保険の適用になりますか?
A. はい、「徘徊感知機器」として福祉用具レンタルの対象となる場合があります。要介護認定を受けている方が対象で、ケアマネジャーが必要と判断すれば、月額費用の1割~3割の自己負担でレンタルできます。ただし、端末の「購入」は保険の対象外です。まずは担当のケアマネジャーにご相談ください。
スマートタグはGPSの代わりとして使えますか?
A. AirTagなどのスマートタグは、Bluetoothを利用して近くにある他人のスマートフォンと通信することで位置を特定します。そのため、周囲に人がいない山間部などでは位置情報が更新されず、徘徊対策としての確実性には欠けます。月額料金がかからないメリットはありますが、リアルタイムで正確な居場所を知る必要がある徘徊対策には、GPS端末の利用を強くおすすめします。
そもそも、なぜ認知症の人は徘徊(外出)してしまうのですか?
A. 徘徊の理由は一人ひとり異なり、様々です。例えば「仕事に行かなければ」「子供を迎えに行かなければ」といった、過去の習慣に基づいた目的がある場合や、不安や焦燥感から落ち着かずに歩き回ってしまう場合、あるいは単にトイレの場所が分からずに探し回っているうちに外に出てしまうケースなどがあります。目的のない「うろつき」ではないことを理解することが、ご本人への対応の第一歩になります。