
はじめに:その髪の悩み、洗髪頻度が原因かも?
「最近、抜け毛が増えた気がする」「頭皮のフケやかゆみが気になる」「髪がパサついてまとまらない」…。年齢を重ねるにつれて増える髪のお悩み、実は毎日の習慣である「洗髪の頻度」が原因かもしれません。
若い頃と同じように毎日シャンプーをしていませんか?良かれと思ってやっているそのヘアケアが、かえって頭皮環境を悪化させている可能性があります。この記事では、高齢者の方に最適な洗髪頻度とその根拠、そして抜け毛やフケ・かゆみを防ぐための正しい洗髪方法やシャンプーの選び方を、介護の視点も交えて詳しく解説します。ご自身の髪だけでなく、ご家族の介護で悩んでいる方もぜひ参考にしてください。
なぜ高齢者は毎日髪を洗わない方がいいの?その理由とは
多くの方が清潔を保つために毎日髪を洗っていますが、高齢者の場合はそれが必ずしも良いとは限りません。その背景には、加齢による身体の変化が大きく関係しています。ここでは、なぜ毎日の洗髪が推奨されないのか、その具体的な理由を掘り下げていきましょう。
加齢で変化する頭皮環境|皮脂の減少と乾燥がカギ
私たちの頭皮は、皮脂腺から分泌される皮脂によって潤いの膜(皮脂膜)が作られ、外部の刺激や乾燥から守られています。しかし、年齢を重ねると、この皮脂の分泌量が減少していきます。特に女性は、女性ホルモンの減少に伴い、皮脂量が減る傾向にあります。
皮脂という天然の保湿クリームが少なくなった高齢者の頭皮は、バリア機能が低下し、非常に乾燥しやすくデリケートな状態です。この状態で洗浄力の強いシャンプーで毎日洗髪すると、必要な皮脂まで奪ってしまい、さらに乾燥を悪化させる原因となります。
髪の洗いすぎが招く頭皮トラブル(抜け毛・フケ・かゆみ)
頭皮の乾燥は、さまざまなトラブルの引き金になります。頭皮のバリア機能が失われると、わずかな刺激にも敏感に反応してしまい、かゆみを感じやすくなります。また、乾燥によって頭皮のターンオーバーが乱れると、古くなった角質が剥がれ落ちてフケが発生しやすくなります。
さらに重要なのは、頭皮が髪の毛を育む土壌であるという点です。乾燥や炎症などによって頭皮環境が悪化すると、健康な髪の毛が育ちにくくなり、髪が細くなったり、抜け毛が増えたりする原因に繋がってしまうのです。
逆に髪を洗わないとどうなる?衛生面と臭いの問題
洗いすぎが良くないからといって、長期間髪を洗わないのも問題です。頭皮では、汗や剥がれた角質、そして酸化した皮脂などが混ざり合って汚れとなります。この汚れを放置すると、雑菌が繁殖し、不快な臭いやかゆみ、炎症を引き起こす原因になります。
また、過剰な皮脂や汚れが毛穴に詰まると、健康な毛髪の成長を妨げ、これもまた抜け毛に繋がる可能性があります。頭皮の健康を保つためには、洗いすぎず、かつ不潔にならない、適切なバランスを見つけることが何よりも大切です。
【結論】高齢者の適切な洗髪頻度は「2〜3日に1回」が目安
皮脂を落としすぎず、かつ頭皮の清潔を保つ。この2つのバランスを考えたとき、高齢者の洗髪頻度は「2〜3日に1回」が基本的な目安となります。毎日洗髪していた方は、まず1日おきにすることから試してみて、ご自身の頭皮や髪の状態を確認しながら調整していくのが良いでしょう。
もちろん、これはあくまで一般的な目安です。次項で解説するように、年代や個人の体質、生活習慣によって最適な回数は変わってきます。
【年代・性別】洗髪頻度の目安|60代・70代・80代
皮脂の分泌量は、年代が上がるにつれてさらに減少していく傾向があります。そのため、年齢に合わせて頻度を見直すのがおすすめです。
- 60代の方:2日に1回程度を目安に。まだ皮脂分泌が比較的ある方もいるため、べたつきが気になる場合はこの頻度を基準にしましょう。
- 70代・80代の方:3日〜4日に1回程度を目安に。乾燥がより進む年代のため、洗いすぎには特に注意が必要です。
また、一般的に男性の方が女性よりも皮脂分泌が多いため、同じ年代でも性別によって快適な頻度は異なります。ご自身の頭皮の状態をよく観察し、べたつきや乾燥のサインを見逃さないようにしましょう。
体調やライフスタイル(汗をかいた日など)に合わせた調整も大切
洗髪頻度は、必ずしも厳格に守る必要はありません。例えば、夏場やスポーツなどで汗をたくさんかいた日は、臭いや雑菌の繁殖を防ぐためにシャンプーをするのがおすすめです。スタイリング剤を使った日も、その日のうちに洗い流した方が良いでしょう。
逆に、体調が優れない日や、一日中室内で過ごして汗をかかなかった日は、無理に洗髪せず、翌日に回すといった柔軟な対応が大切です。ご自身の体調やその日の活動内容に合わせて、頻度を調整する習慣をつけましょう。
【実践編】抜け毛やパサつきを防ぐ!高齢者のための正しい洗髪方法
適切な頻度で洗髪しても、洗い方が間違っていると頭皮や髪にダメージを与えてしまいます。ここでは、デリケートな高齢者の髪と頭皮を守るための、正しい洗髪方法を6つのステップでご紹介します。
ステップ1:洗髪前にブラッシングで髪の絡まりとホコリを取る
シャンプー前に乾いた髪を優しくブラッシングすることで、髪の絡まりがほどけ、シャンプー時の摩擦によるダメージや抜け毛を減らすことができます。また、髪や頭皮についたホコリやフケを浮かせる効果もあります。毛先から優しくとかし、次に根元から全体をとかしましょう。
ステップ2:38〜40℃のぬるま湯で頭皮までしっかり予洗い
お湯の温度は、熱すぎると頭皮の乾燥を招くため、38〜40℃程度のぬるま湯が最適です。シャンプーをつける前に、1〜2分ほど時間をかけて、髪と頭皮をしっかりと濡らしましょう。この予洗いだけで、髪の汚れの7割程度は落ちると言われており、シャンプーの泡立ちも格段に良くなります。
ステップ3:シャンプーは手のひらで泡立て、指の腹で優しく洗う
シャンプーの原液を直接頭皮につけると、刺激が強すぎたり、すすぎ残しの原因になったりします。必ず手のひらで軽く泡立ててから、髪全体になじませましょう。洗う際は、爪を立てずに指の腹を使い、頭皮をマッサージするように優しく揉み洗いするのがポイントです。
ステップ4:すすぎ残しは禁物!時間をかけて丁寧に洗い流す
シャンプーやコンディショナーのすすぎ残しは、フケやかゆみ、頭皮の炎症といったトラブルの大きな原因になります。特に、生え際、襟足、耳の後ろはすすぎ残しやすい部分です。洗うのにかけた時間の2倍くらいの時間を意識して、ぬめり感がなくなるまで丁寧に洗い流しましょう。
ステップ5:トリートメントで保湿し、髪のダメージをケア
シャンプー後の髪は、表面のキューティクルが開いて水分が逃げやすい状態です。トリートメントやコンディショナーで油分と水分を補給し、髪を保護しましょう。このとき、根元や頭皮にはつけず、毛先などダメージが気になる部分を中心になじませるのがコツです。数分置いてから、しっかりとすすぎましょう。
ステップ6:タオルドライ後はすぐにドライヤーで根元から乾かす
髪が濡れたままの状態は、雑菌が繁殖しやすく、臭いやかゆみの原因となります。また、キューティクルが開いたままなので非常にデリケートです。タオルでゴシゴシ擦らず、優しく押さえるように水分を拭き取ったら、すぐにドライヤーで乾かしましょう。髪から20cmほど離し、まずは頭皮と根元から乾かしていくのがポイントです。
フケ・かゆみ対策に|高齢者向けシャンプーの選び方
デリケートな高齢者の頭皮には、毎日使うシャンプー選びも非常に重要です。洗浄力だけでなく、配合されている成分にも注目して、ご自身の頭皮や髪の悩みに合ったものを選びましょう。
洗浄成分は頭皮に優しい「アミノ酸系」を選ぶ
シャンプーの洗浄成分には様々な種類がありますが、高齢者の方には洗浄力がマイルドで、頭皮の潤いを奪いすぎない「アミノ酸系」や「ベタイン系」のものがおすすめです。市販のシャンプーに多い「高級アルコール系」は洗浄力が強いため、乾燥が気になる方は避けた方が良いでしょう。成分表示で「ココイル~」「ラウロイル~」などと書かれているものがアミノ酸系の目印です。
乾燥やパサつきには「保湿成分」配合のものを
頭皮の乾燥や髪のパサつきが気になる場合は、保湿成分が豊富に含まれたシャンプーを選びましょう。代表的な保湿成分には、以下のようなものがあります。
- セラミド
- ヒアルロン酸
- コラーゲン
- グリセリン
- リピジュア
これらの成分が、頭皮と髪に潤いを与え、しっとりとした洗いあがりをサポートします。
ハリ・コシ不足には「ボリュームアップ成分」をチェック
「髪が細くなってボリュームが出ない」というお悩みには、髪にハリやコシを与える成分が配合されたシャンプーが効果的です。髪の内部を補修する「加水分解ケラチン」や、髪を根元から立ち上げる効果が期待できる「ヘマチン」などの成分が代表的です。これらの成分が、ふんわりとした若々しい印象の髪へと導いてくれます。
【ご家族・介護者向け】安全に行うための洗髪介助のポイント
ご家族の介護で洗髪を行う場合、本人の身体的な負担や安全への配慮が不可欠です。ここでは、介護が必要な方の洗髪を、本人も介助者も安心して行うためのポイントを「看護」の視点から解説します。
高齢者の洗髪介助における注意点【看護の視点】
安全で快適な洗髪介助のためには、事前の準備と介助中の細やかな配慮が大切です。特に以下の3つの点に注意しましょう。
浴室の環境整備(転倒防止・温度管理)
浴室での転倒は大きな事故に繋がります。必ず滑り止めマットを敷き、シャワーチェアを使用するなど、安定した姿勢を保てる環境を整えましょう。また、寒い時期は脱衣所と浴室の温度差によるヒートショックのリスクがあります。事前にシャワーで浴室全体を暖めておくなどの配慮が必要です。
洗髪中の体調変化に気を配る
洗髪は、前かがみの姿勢を続けたり、立ち座りをしたりと、高齢者にとっては想像以上に体力を消耗する行為です。洗髪前後に声をかけて気分を確認したり、顔色が悪くないかなどを常に観察したりすることが重要です。少しでも「しんどい」と感じた様子が見られたら、無理をせず中断しましょう。
本人の意思を尊重したコミュニケーション
介助をスムーズに行うことだけを考えるのではなく、本人が安心して身を任せられるようなコミュニケーションを心がけましょう。「お湯加減はいかがですか?」「かゆいところはありませんか?」など、一つ一つの動作ごとに声かけをすることで、本人の不安が和らぎ、自尊心を守ることにも繋がります。
認知症などで洗髪を拒否するときの対応策
認知症の方が入浴や洗髪を嫌がるケースは少なくありません。その背景には、何をするのか分からない不安や、過去の不快な経験があるかもしれません。まずは「なぜ嫌なのか」を考え、無理強いするのは避けましょう。
時間や曜日を変えて誘ってみたり、好きな音楽をかけたり、シャンプーの香りを一緒に選んだりするなど、本人がリラックスできる環境を作る工夫が有効な場合があります。日を改めて、本人の気分が良い時に再挑戦する柔軟な姿勢が大切です。
入浴が難しい時に役立つ「ドライシャンプー」という選択肢
体調不良や寝たきりの状態、また本人の入浴拒否が続くなど、浴室での洗髪が難しい場合には、「ドライシャンプー」を活用するのも一つの有効な方法です。水やお湯を使わずに、頭皮や髪のベタつき、臭いを抑えることができます。
スプレータイプや、頭皮を拭き取るシートタイプ、泡で出てくるタイプなど様々な種類があります。災害時にも役立つため、一つ常備しておくと安心です。
まとめ:適切な洗髪頻度で、健康な髪と頭皮を保ちましょう

今回は、高齢者の洗髪頻度について詳しく解説しました。
- 高齢者の洗髪は、皮脂の減少と乾燥を防ぐため「2〜3日に1回」が目安です。
- 洗い方一つで髪の状態は変わります。「ぬるま湯で、優しく、丁寧に」が基本です。
- シャンプーは「アミノ酸系」の洗浄成分で、悩みに合った保湿・補修成分配合のものがおすすめです。
- 介護での洗髪は、本人の安全と体調、そして気持ちに寄り添うことが最も重要です。
適切な頻度と正しいヘアケアを習慣にすることで、フケやかゆみ、抜け毛といった悩みは改善が期待できます。この記事を参考に、ぜひ今日からあなたの「洗髪新習慣」を始めてみてください。
高齢者の洗髪に関するよくある質問
記事のまとめとして、高齢者の洗髪頻度に関するよくある質問とその回答をご紹介します。
高齢者の理想的な洗髪頻度は?(年代別の目安も)
A. 肌の乾燥が進むため、2〜3日に1回が基本的な目安です。皮脂の分泌量は年齢と共に減少する傾向があるため、より具体的には60代は2日に1回、70代以降は3日に1回程度で調整するのがおすすめです。ただし、夏場や汗をかいた日などは、状況に応じて洗髪してください。
高齢者の洗髪や介助で気をつけることは?
A. ご自身で洗う際は、38〜40℃のぬるま湯で、爪を立てずに指の腹で優しく洗うことが大切です。介助を行う場合は、転倒防止のための滑り止めマットやシャワーチェアの活用、浴室と脱衣所の温度差をなくすといった環境整備が最優先です。また、洗髪中の体調変化にも常に気を配りましょう。
年齢を重ねると髪や頭皮はどう変わるの?
A. 主に2つの変化があります。1つは、頭皮の皮脂分泌量が減り、乾燥しやすくなること。これによりフケやかゆみが出やすくなります。もう1つは、髪の毛自体が細くなり、ハリやコシが失われること。これにより、髪全体のボリュームが減ったり、うねりやパサつきが目立つようになったりします。
抜け毛が気になります。おすすめのシャンプーは?
A. まずは、頭皮に必要な潤いを奪いすぎない、洗浄力がマイルドな「アミノ酸系」のシャンプーを選ぶのが大前提です。その上で、髪にハリ・コシを与える「ヘマチン」「加水分解ケラチン」などの成分や、頭皮環境を整える保湿成分(セラミド、ヒアルロン酸など)が配合されたものを選ぶと良いでしょう。
そもそもなぜ高齢者も定期的な洗髪が必要なの?
A. 定期的な洗髪には2つの大きな目的があります。1つは、頭皮を清潔に保つこと。古い皮脂や汗、汚れを洗い流すことで、臭いやフケ、かゆみ、炎症といった皮膚トラブルを防ぎます。もう1つは、心身をリフレッシュさせること。温かいお湯で頭を洗う行為は、血行を促進し、さっぱりとした爽快感や安らぎをもたらす効果が期待できます。