
はじめに:親御さんの足元、本当に安全ですか?
「家の中だから安全」そう思っていませんか?大切なご家族の毎日の暮らし、特に足元に思わぬ危険が潜んでいるかもしれません。この記事では、多くのご家庭で使われている「スリッパ」に焦点を当て、なぜ高齢者にとって危ないのか、そしてどうすれば室内での転倒事故を防げるのかを、分かりやすく解説していきます。親御さんの安全で快適な生活のために、今すぐできることを見つけていきましょう。
高齢者の転倒事故、実は「自宅」が最も多いという事実
消費者庁の調査によると、高齢者の転倒事故が起きる場所は「自宅」が最も多いというデータがあります。住み慣れたはずの家の中、特に居間や寝室といった日常空間での事故が後を絶ちません。加齢による身体機能の変化は、これまで何ともなかったはずの場所や動作に危険をもたらします。安心して過ごせるはずの自宅だからこそ、転倒のリスクを正しく理解し、予防策を講じることが非常に重要になるのです。
危ないのは階段や段差だけじゃない!見落としがちなスリッパの危険性
家の中の転倒対策というと、階段に手すりをつけたり、部屋の段差をなくしたりすることを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、それと同じくらい、いえ、それ以上に注意すべきなのが「履物」です。特に、日本の家庭で広く使われているスリッパは、その手軽さとは裏腹に、高齢者の歩行を不安定にし、転倒を引き起こす大きな原因となり得ます。足元の一番身近なアイテムを見直すことが、安全な住環境づくりの第一歩です。
【危険】高齢者にとってスリッパが危ない5つの理由
なぜ、これまで当たり前に使ってきたスリッパが、高齢者にとっては危険なのでしょうか。その理由は、スリッパの構造と、加齢による身体の変化の組み合わせにあります。ここでは、転倒リスクを高める具体的な5つの理由を解説します。
理由1:かかとが無く脱げやすい!つまずきの原因に
スリッパの最大の特徴である「かかとがない」デザインは、手軽に脱ぎ履きできる反面、歩行中にスリッパが足から離れやすいという大きな欠点があります。本人は意図せずとも、スリッパが脱げかかったり、先端が床に引っかかったりして、つまずきの直接的な原因になります。足と履物が一体にならないため、歩行が不安定になりがちな高齢者にとっては非常に危険な状態です。
理由2:滑りやすい靴底で転倒リスクが上昇
多くのスリッパの靴底は、つるつるしたビニール素材などで作られています。このような靴底は、フローリングやクッションフロアなどの床材の上では非常に滑りやすく、転倒のリスクを高めます。特に、靴底がすり減ってきたり、床に水や油が少しでもこぼれていたりすると、予期せぬタイミングで足元をすくわれる可能性があります。滑り止め機能が備わっていない履物は、高齢者の室内履きとして不適切です。
理由3:「すり足」歩行が癖になり、筋力が低下する
スリッパが脱げないように、多くの人は無意識のうちに足を高く上げず、床を擦るような「すり足」で歩くようになります。この歩き方が癖になると、つま先を上げるための筋肉(前脛骨筋)が使われなくなり、筋力の低下につながります。筋力が低下すると、ますます足が上がらなくなり、何もない平らな場所でさえつまずきやすくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
理由4:不安定な歩行で体のバランスを崩しやすい
かかとが固定されていないスリッパでは、歩くたびに足がスリッパの中で動いてしまい、重心が安定しません。特に、部屋の角を曲がったり、急に方向転換したりする際に、足元がぐらついて身体のバランスを崩しやすくなります。加齢によりバランス能力自体が低下している高齢者にとって、この不安定さは転倒に直結する大きな危険要因と言えるでしょう。
理由5:足指が使えず、とっさの踏ん張りがきかない
私たちがバランスを保つとき、足の指は地面をつかむようにして体を支えています。しかし、スリッパを履いていると、中で足が滑ってしまうため足指に力が入りません。その結果、万が一バランスを崩しかけた時に、地面をしっかりと踏ん張ることができず、そのまま転倒してしまう可能性が高まります。とっさの一歩で体を支える能力が、スリッパによって妨げられてしまうのです。
もう迷わない!高齢者の転倒を防ぐ安全な室内履きの選び方
スリッパの危険性がわかったところで、次に「では、代わりに何を履けば良いのか」という疑問にお答えします。高齢者の足元を安全に守るためには、ルームシューズや介護シューズと呼ばれる室内履きがおすすめです。ここでは、安全な室内履きを選ぶための5つの重要なポイントをご紹介します。
ポイント1:かかとがしっかり覆われていること
最も重要なポイントは、かかとがしっかりと覆われていることです。かかとがあることで足と履物が一体化し、歩行が安定します。脱げにくく、つまずきの心配が大幅に減少します。また、足全体が包まれることで、安心感も生まれます。スリッパとの最大の違いであり、安全性を確保するための絶対条件と言えるでしょう。
ポイント2:靴底に滑り止め加工がされていること
靴底の素材を確認し、フローリングなど様々な床材に対応できる滑り止め加工が施されているかを必ずチェックしましょう。ゴム素材など、グリップ力のある靴底が理想的です。これにより、キッチンなど水気のある場所や、滑りやすい床での転倒リスクを効果的に予防できます。安全な歩行を足元から支える、大切な機能です。
ポイント3:軽くて、つま先が少し上がっている(トゥスプリング)こと
履物自体の重さも重要です。足に負担がかからない軽量なものを選びましょう。さらに、つま先の先端が少し反り上がっている「トゥスプリング」という形状になっていると、歩行時に足が自然に前に出やすく、わずかな段差でのつまずきを防止する効果があります。歩きやすさと安全性を両立させるための工夫です。
ポイント4:足に合ったサイズで、履きやすく脱ぎやすいこと
大きすぎる履物は中で足が動いてしまい不安定ですし、小さすぎると足を痛める原因になります。必ず本人の足のサイズに合ったものを選びましょう。その上で、マジックテープ(面ファスナー)で甲の部分を調整できるタイプや、履き口が大きく開くタイプなど、本人でも簡単に脱ぎ履きできるデザインを選ぶことが大切です。これにより、履くことへの抵抗感を減らすことができます。
ポイント5:通気性が良くクッション性のある快適な素材であること
毎日、長時間履くものだからこそ、快適性も無視できません。足が蒸れにくいメッシュ素材などの通気性の良いものや、歩行時の衝撃を吸収してくれるクッション性のある素材を選ぶと、足への負担が軽減されます。本人が「履きたい」と思えるような、快適で心地よい一足を見つけてあげることが、継続して使用してもらうための秘訣です。
【タイプ別】高齢者におすすめの室内履き(ルームシューズ)
安全な室内履きの選び方を踏まえ、ここでは利用シーンや目的別にどのようなタイプがあるかをご紹介します。「あゆみ」や「グンゼ」といったブランドからも、様々な工夫が凝らされた商品が販売されています。親御さんの状態や好みに合わせて、最適な一足を選ぶ際の参考にしてください。
日常使いに|安定感と快適さを両立した定番タイプ
特別に足に問題がない場合でも、転倒予防としておすすめなのがこのタイプです。かかとがあり、滑りにくく、軽量であるといった基本的な安全機能を備えています。デザインやカラーバリエーションも豊富で、おしゃれなものも多くあります。まずはこのような定番のルームシューズから試してみて、スリッパとの歩きやすさの違いを実感してもらうのが良いでしょう。
リハビリ中の方に|装具にも対応できる専門タイプ
リハビリ中の方や、足にむくみや腫れがある方、装具を使用している方向けに設計された専門的な室内履きもあります。介護シューズの専門ブランド「あゆみシューズ」などがこの分野で知られています。履き口が大きく開いて着脱が非常に楽だったり、甲のベルトでフィット感を細かく調整できたりする機能が特徴です。ケアマネジャーやリハビリの専門職に相談してみるのも一つの方法です。
季節に合わせて|夏におすすめのメッシュ素材・冬に嬉しい保温素材
一年中快適に過ごせるよう、季節に合わせた素材選びも大切です。夏場には、通気性の良いメッシュ素材を使用したものを選ぶと、足の蒸れを防ぎ、爽やかに過ごせます。逆に冬場には、内側がボア素材になっているものなど、保温性の高いルームシューズがおすすめです。季節ごとに履き替えることで、より快適な室内生活を送ることができます。
【実践】親に安全な室内履きへ替えてもらうための伝え方のコツ
「安全な室内履きが良いのはわかったけれど、親がなかなか言うことを聞いてくれない…」そんな悩みを持つ方も少なくないでしょう。長年の習慣を変えるのは簡単なことではありません。ここでは、親御さんに気持ちよく履き替えてもらうための、ちょっとした伝え方のコツをご紹介します。
「危ないから」だけでなく「こっちの方が快適だよ」と伝える
頭ごなしに「そのスリッパは危ないからやめて!」と否定から入ると、反発心を招いてしまうことがあります。そうではなく、「こっちのシューズ、すごく軽くて歩きやすいみたいだよ」「クッションが気持ちよくて足が疲れないんだって」というように、本人にとってのメリットや快適さを中心に伝えてみるのがおすすめです。ポジティブな提案が、心を開くきっかけになります。
プレゼントとして贈り、一緒に選ぶ楽しみを提供する
「いつもありがとう」という気持ちを込めて、誕生日や敬老の日などにプレゼントとして贈るのも素敵な方法です。その際は、一方的に選ぶのではなく、「今度のお休みに一緒に見に行かない?」「カタログで好きな色を選んでみて」など、本人の好みを尊重し、選ぶ過程を一緒に楽しむことが大切です。自分で選んだ一足なら、愛着を持って履いてくれるでしょう。
家族も一緒に「安全な室内履き」に替えてみる
「お父さん(お母さん)だけ特別扱いされている」と感じさせないための配慮も重要です。「この際だから、家族みんなで安全なルームシューズに替えよう!」と提案し、家族全員で取り組むことで、自然な形で習慣を変えることができます。家族が同じ履物を使っている安心感は、本人の心理的な抵抗を和らげるのに非常に効果的です。
まとめ:危ないスリッパから卒業!安全な室内履きで大切な家族を転倒から守ろう

この記事では、高齢者にとってスリッパが危ない理由と、安全な室内履きの選び方について解説しました。スリッパは脱げやすく、滑りやすいため、家の中での転倒事故の大きな原因となります。大切な家族を危険から守るために、「かかとがあり、滑りにくく、軽くて、サイズが合った」安全な室内履きへの切り替えを検討してみてください。足元が変われば、毎日の生活の安心感が大きく変わります。この記事が、ご家族の安全で快適な暮らしのきっかけになれば幸いです。
高齢者のスリッパ・室内履きに関するよくある質問
スリッパが危ない、ダメだと言われるのはなぜですか?
A. スリッパが危ない理由は主に以下の点が挙げられます。
- かかとが固定されず、歩行中に脱げたりつまずいたりしやすい。
- 靴底が滑りやすい素材でできており、フローリングなどで転倒しやすい。
- 脱げないように「すり足」で歩く癖がつき、足の筋力が低下する原因になる。
- バランスを崩した時に足指で踏ん張れず、転倒につながりやすい。
これらの要因が複合的に絡み合い、高齢者の転倒リスクを著しく高めるため、使用は推奨されていません。
高齢者が転びにくい安全な室内履きの特徴を教えてください。
A. 高齢者が転びにくい安全な室内履きには、以下のような特徴があります。
- かかとがしっかり覆われていること。
- 靴底に滑り止め加工が施されていること。
- 軽量で、つま先が少し上がっていること。
- 本人の足のサイズに合っていること。
- マジックテープなどで着脱や調整がしやすいこと。
これらのポイントを満たすルームシューズや介護シューズを選ぶことが、転倒予防につながります。
室内では何も履かない方が安全ですか?それとも室内履きは必要ですか?
A. 裸足の方が滑りにくいと感じる方もいますが、一概に安全とは言えません。裸足の場合、皮脂で床が汚れたり、逆にわずかなホコリで滑ってしまったりする可能性があります。また、足を保護するものがないため、家具の角にぶつけたり、物を落としたりした際に怪我をしやすいという危険性もあります。足を保護し、適切なグリップ力を得るために、自分に合った安全な室内履きを着用することをおすすめします。
履物以外で、高齢者のつまづきを防止する対策はありますか?
A. はい、履物の見直しと合わせて、住環境を整えることも非常に重要です。具体的には、以下のような対策が有効です。
- 廊下や部屋の床に物を置かないようにし、動線を確保する。
- 電気コード類を壁際に固定する、またはカバーをする。
これらの対策を組み合わせることで、より安全な室内環境を作ることができます。