ご自身の最期について考えたとき、「延命治療は望まない」「自分らしく穏やかに終わりたい」と願う方は少なくないでしょう。しかし、その意思をどう伝えれば良いのか、書き方がわからず不安に感じていませんか。
この記事では、終末期医療の希望を伝える「リビングウィル」について、専門家監修のテンプレートや例文を交えながら、誰でも簡単に作成できる手順をやさしく解説します。あなたの尊厳ある最期を実現するための第一歩を、ここから始めましょう。
リビングウィルとは終末期医療の事前指示書

リビングウィルとは、将来自分が終末期医療を受ける立場になったとき、どのような医療を望むか、あるいは望まないかを、元気なうちに文書で示しておく「生前の意思表示」のことです。あなたの意思を家族や医療関係者に明確に伝える大切な役割を果たします。
万が一、自分で意思を伝えられなくなった場合に備え、自分らしい最期を迎えるための重要な書類となります。終活の一環として、多くの方が作成を検討しています。
尊厳死や事前指示書との明確な違い
リビングウィルは、回復の見込みがない状態での延命措置を断り、自然な死(尊厳死)を望む意思を示すものです。積極的な安楽死とは異なり、あくまでも医療行為の差し控えや中止を求める意思表示となります。
「事前指示書」は終末期医療に関する意思表示の総称であり、リビングウィルはその一種です。つまり、リビングウィルは事前指示書を具体的に文書化したものと理解すると分かりやすいでしょう。
リビングウィルが今なぜ必要なのか
現代の医療技術は高度化し、本人の意思が不明な場合、回復の見込みがなくても延命治療が続けられることがあります。そうなると、家族は精神的・経済的に大きな負担を強いられるかもしれません。
リビングウィルを作成しておくことで、家族が辛い決断を迫られる状況を避けられます。本人の意思が尊重され、家族の負担も軽減できるため、その必要性が高まっているのです。
法的効力と厚生労働省のガイドライン
現状、リビングウィルに直接的な法的拘束力はありません。しかし、厚生労働省が策定したガイドラインでは、本人の意思決定を基本とし、家族や医療チームで話し合って方針を決めることが推奨されています。
そのため、リビングウィルは法的な強制力はないものの、医療現場において本人の意思を推定する重要な資料として尊重されます。あなたの最期の迎え方を左右する、大切な宣言書と言えるでしょう。
テンプレート付|リビングウィルの書き方5ステップ

リビングウィルの作成は、決して難しいものではありません。専用の書式やテンプレートを使えば、誰でも自分の意思を明確に残すことができます。ここでは、具体的な書き方を5つのステップに分けて解説します。
この手順に沿って進めることで、あなた自身の想いを込めた、有効なリビングウィルが完成します。さっそく準備を始めてみましょう。
ステップ1:専用の用紙や書式を準備する
まずはリビングウィルを作成するための用紙を準備します。日本尊厳死協会や各自治体の公式サイトでは、無料でダウンロードできる公式テンプレートが提供されているので、活用すると便利です。
もちろん、決まった書式でなければならないわけではありませんが、必要な項目が網羅されたテンプレートを使うと、初めての方でもスムーズに作成できます。まずは自分に合った書式を探してみましょう。
ステップ2:延命治療に関する意思を明確にする
リビングウィルの核となるのが、延命治療に関する意思表示です。「延命のためだけの治療は望みません」といったように、自分の希望を明確な言葉で記しましょう。あいまいな表現は解釈に迷いが生じるため避けるべきです。
なぜそう考えるのか、というあなたの価値観や想いを付け加えることもできます。誰が読んでも誤解の余地がないように、断定的な表現で書くことが重要です。
ステップ3:具体的な医療処置への希望を記す
延命治療全般だけでなく、個別の医療処置について希望を記すと、より意思が伝わりやすくなります。以下の表のように、具体的な処置ごとに希望の有無を記載しましょう。
すべてを一律に拒否するのではなく、状況に応じて判断を委ねたい項目があっても構いません。あなたの考えに最も近い選択をしてください。
| 医療処置 | 希望する | 希望しない | その他 |
|---|---|---|---|
| 心肺蘇生術 | ✓ | ||
| 人工呼吸器 | ✓ | ||
| 胃ろう(経管栄養) | ✓ | ||
| 苦痛緩和ケア | ✓ | 最大限行ってほしい |
ステップ4:代理人の指定と署名欄を設ける
あなたが直接意思表示できなくなった際に、あなたに代わって医療に関する決定を行う「代理人(意思決定代行者)」を指定することができます。信頼できる家族や友人を指名し、事前に同意を得ておきましょう。
また、この文書があなたの意思で作成されたことを証明するために、証人(2名以上が望ましい)の署名欄を設けることも有効です。代理人と証人の協力は、あなたの意思を実現する上で大きな力となります。
ステップ5:日付と本人の署名で完成させる
すべての項目を記入したら、最後に作成した年月日を正確に記入し、必ず自筆で署名・捺印してください。ワープロで作成した場合でも、署名だけは手書きで行うことが極めて重要です。
この署名と日付によって、この文書があなたの明確な意思に基づいて作成されたことを証明します。これで、あなただけのリビングウィルは完成です。
状況別に使えるリビングウィルの例文を紹介

実際にリビングウィルを作成する際、どのような文章で書けば良いか迷うこともあるでしょう。ここでは、具体的な状況を想定した2つの例文を紹介します。ご自身の考えに近いものを参考に、言葉を調整してみてください。
例文はあくまで一例です。最も大切なのは、あなた自身の言葉で、心からの想いを記すことです。例文をヒントに、自分らしい表現を探してみましょう。
基本的な延命治療を望まない場合の例文
最も一般的なケースとして、過度な延命措置を望まず、自然な経過を大切にしたい場合の例文です。医療関係者への感謝の言葉を添えることで、より円滑なコミュニケーションにつながります。
「私は、傷病により回復不能で死期が迫っていると診断された場合、ただ死期を引き延ばすためだけの延命措置をお断りします。苦痛を和らげる緩和ケアを最大限に行い、穏やかな最期を迎えさせてください。」
特定の病状に限定して意思表示する例文
特定の病気になった場合に限定して、延命治療に関する意思を示すことも可能です。例えば、認知症や特定の難病などを想定して、より具体的な希望を記すことができます。
「私が重度の認知症と診断され、自らの意思を表明できなくなった際は、胃ろうや点滴による人工的な水分・栄養補給は行わないでください。これは、私の尊厳を守るための強い希望です。」
リビングウィル作成後の重要な注意点3つ

リビングウィルは、作成して保管しておくだけでは意味がありません。いざという時にその内容が確実に実行されるよう、作成後に注意すべき大切なポイントが3つあります。これらを押さえて、万全の準備を整えましょう。
作成後のひと手間が、あなたの最期の意思を確実に守ることにつながります。最後まで気を抜かずに確認してください。
公正証書にするメリットとデメリット
リビングウィルを公証役場で「公正証書」にすると、文書の証明力が高まり、原本が役場に保管されるため紛失や改ざんの心配がなくなります。法的な信頼性が格段に向上するのが大きなメリットです。
一方で、作成には数万円程度の費用と、公証人との打ち合わせなどの手間がかかる点がデメリットです。法的な確実性を最優先するならば、公正証書化を検討する価値はあるでしょう。
家族や医療関係者への共有と保管方法
最も重要なのは、リビングウィルを作成した事実とその内容を、家族や代理人、かかりつけ医に必ず伝えておくことです。存在を知られていなければ、あなたの意思は尊重されようがありません。
保管場所を明確にし、コピーを関係者に渡しておくのが確実です。エンディングノートに挟んだり、保険証などと一緒に保管したりするのも良いでしょう。いつでも誰でも確認できる状態にしておくことが肝心です。
定期的な見直しと書き換えの必要性
人の考えや気持ちは、時間や状況によって変化することがあります。また、医療技術も日々進歩しています。そのため、リビングウィルは一度作成したら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。
少なくとも年に一度、誕生日などの節目に内容を再確認し、考えが変わっていれば書き直しましょう。常に最新の意思が反映された状態を保つことが大切です。書き直した場合は、最新の日付のものが有効となります。
まとめ:リビングウィルで尊厳ある最期を

リビングウィルは、終末期にどのような医療を受けたいかという、あなたの「生前の意思」を明確にするための重要な書類です。書き方に決まったルールはありませんが、テンプレートを活用し、今回ご紹介したステップに沿って作成すれば、決して難しいものではありません。
作成後は家族や医療関係者と共有し、定期的に見直すことが大切です。あなたらしい尊厳ある最期を迎えるための準備として、ぜひリビングウィルの作成に取り組んでみてください。
リビングウィルの書き方でよくある質問

リビングウィルは誰でも書き直しできますか?
はい、ご自身の意思能力がはっきりしている限り、いつでも誰でも書き直すことが可能です。考えが変わったり、家族構成に変化があったりした場合は、その都度内容を見直して新しいものを作成しましょう。
書き直した際は、必ず新しい日付を記入してください。複数のリビングウィルが存在する場合、原則として最も日付の新しいものが有効と解釈されます。
延命治療を拒否する意思はどう書きますか?
「一切の延命措置を望みません」と包括的に書くこともできますが、より具体的に記載することをおすすめします。「人工呼吸器」「胃ろう」「心肺蘇生術」など、個別の処置ごとに希望の有無を記すと、意思が明確に伝わります。
大切なのは、あいまいな表現を避け、「~しないでください」「~を望みません」といった断定的な言葉で記すことです。例文を参考に、ご自身の言葉で表現してください。
作成する上でのデメリットや欠点はありますか?
リビングウィルには法的な強制力がないため、家族の反対が強い場合や医療機関の方針によっては、必ずしも希望通りになるとは限らない点がデメリットとして挙げられます。これを問題点と捉える方もいるでしょう。
この欠点を補うためには、作成した内容について事前に家族と十分に話し合い、理解と同意を得ておくことが非常に重要になります。コミュニケーションが何よりの鍵です。
リビングウィルと事前指示書は同じものですか?
厳密には少し意味合いが異なります。「事前指示書」は、終末期医療に関する本人の意思表示全般を指す、より広い概念の言葉です。これには口頭での意思表示も含まれる場合があります。
一方、「リビングウィル」は、その事前指示を「生前のうちに」「文書として」明確に記したものを指すのが一般的です。リビングウィルは事前指示書の一つの形態と考えると良いでしょう。
延命治療をしない場合どうなりますか?
延命治療を行わないという選択をした場合、死期を人為的に引き延ばすための医療措置は行われません。その代わりに、痛みや不快な症状を取り除くための「緩和ケア」が中心となります。
これにより、人間としての尊厳を保ちながら、穏やかに過ごすことができます。無理な延命をせず、自然な経過に沿って最期の時を迎えることを目指すのが、延命治療をしない場合の医療です。