
はじめに:世代を超えて愛される歌の力とは
音楽には、人の心を動かし、思い出を呼び覚ます不思議な力があります。特に高齢者の方々にとって、若い頃に親しんだ歌は、単なる娯楽ではありません。青春時代を鮮やかに思い出し、心と身体を元気にしてくれる大切な存在です。ご家族との会話のきっかけになったり、介護施設のレクリエーションで仲間との一体感を生んだりと、その役割は多岐にわたります。
この記事では、介護の現場やご家庭でのコミュニケーションに役立つ「高齢者が好きな歌」を、様々なランキング形式でご紹介します。選曲のコツや、歌がもたらす素晴らしい効果もあわせて解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
音楽が高齢者にもたらす3つの素晴らしい効果
音楽を聴いたり歌ったりすることは、高齢者の心と身体に多くの良い影響を与えます。ただ楽しいだけでなく、日々の生活を豊かにし、健康維持や認知症予防の観点からもそのメリットが注目されています。ここでは、音楽がもたらす代表的な3つの効果をご紹介します。音楽活動を日々のプログラムに取り入れることで、利用者の方々の心身の活性化を目指しましょう。
心を癒し、穏やかな気持ちに
ゆったりとした懐かしいメロディーは、心をリラックスさせ、不安な気持ちを和らげる効果が期待できます。昔好きだった歌手の歌や青春時代のヒット曲は、安心感や幸福感をもたらし、精神的な安定に繋がります。音楽鑑賞の時間を作ることは、穏やかで心豊かな生活を送るための簡単で効果的な方法と言えるでしょう。BGMとして静かに流すだけでも、施設の雰囲気を和やかにするのに役立ちます。
昔を思い出し、脳を活性化(回想法)
昔の歌を聴くと、その歌が流行った当時の出来事や情景が自然と頭に浮かびます。これは「回fasta」と呼ばれる心理療法の一つで、過去のポジティブな記憶を呼び覚ますことが脳への良い刺激となり、認知機能の維持や認知症の予防・進行緩和に繋がると言われています。歌をきっかけに、「当時はこうだったね」と昔の思い出話に花が咲き、利用者さん同士やスタッフとのコミュニケーションが深まることも少なくありません。
歌やリズムが身体機能の維持・向上をサポート
歌を歌うという行為は、自然と口や舌、表情筋を使うため、嚥下機能の維持に重要な口腔機能の訓練(オーラルフレイル予防)になります。また、三百六十五歩のマーチのような元気な曲に合わせて手拍子をしたり、軽く身体を動かしたりすることで、楽しみながら適度な運動ができ、身体機能の維持・向上に役立ちます。大きな声で歌えば、心肺機能のトレーニングやストレス発散にも効果的です。
【総合】高齢者が好きな歌ランキングTOP10|心に響く懐メロ・昭和歌謡
数ある名曲の中から、特に高齢者に人気が高く、世代を超えて愛される歌をランキング形式でご紹介します。介護施設のレクリエーションやカラオケで選曲に迷ったら、まずはこの中から選んでみてはいかがでしょうか。どの曲も、利用者さんの思い出の情景を引き出し、会話を弾ませるきっかけとなるでしょう。
- 第1位:川の流れのように / 美空ひばり
昭和を代表する歌姫、美空ひばりさんの代表曲。ゆったりとした曲調と、人生を川の流れにたとえた深い歌詞が、多くの人の心に響きます。 - 第2位:上を向いて歩こう / 坂本九
日本だけでなく世界中でヒットした名曲。前向きな歌詞と明るいメロディーが、自然と元気を与えてくれます。 - 第3位:青い山脈 / 藤山一郎・奈良光枝
戦後の日本を明るく照らした、希望あふれる一曲。誰もが口ずさめる親しみやすいメロディーで、合唱にもぴったりです。 - 第4位:見上げてごらん夜の星を / 坂本九
心温まる歌詞と優しいメロディーが魅力。夜空を見上げながら、穏やかな気持ちで聴きたくなる一曲です。 - 第5位:リンゴの唄 / 並木路子・霧島昇
「リンゴは何にも言わないが」の歌い出しで知られる、戦後初のヒット曲。明るい未来への希望を感じさせます。 - 第6位:高校三年生 / 舟木一夫
学生時代を懐かしく思い出す、青春歌謡の代表格。甘酸っぱい思い出がよみがえり、会話が弾むきっかけにもなります。 - 第7位:三百六十五歩のマーチ / 水前寺清子
「ワン・ツー、ワン・ツー」の掛け声でおなじみ。元気なリズムに合わせて足踏みや手拍子をすれば、楽しく運動できます。 - 第8位:北国の春 / 千昌夫
都会で暮らす人が故郷を思う、望郷の念がこもった一曲。情景が目に浮かぶような歌詞が、多くの人の共感を呼びます。 - 第9位:ふるさと / (唱歌)
「うさぎ追いし かの山」で始まる、日本人の心の故郷ともいえる唱歌。世代を問わず、誰もが知っている名曲です。 - 第10位:いつでも夢を / 橋幸夫・吉永小百合
夢と希望を持つことの大切さを歌ったデュエットソング。明るく爽やかなメロディーが人気です。
【年代別】青春時代がよみがえる歌謡曲・懐メロ
好きな歌は、その人がどんな時代に青春を過ごしたかによっても変わってきます。より利用者の心に寄り添った選曲をするためには、年代ごとのヒット曲を知っておくことが大切です。ここでは、70代、80代、90代の方々が特に懐かしく感じるであろう名曲を、当時の時代背景とともにご紹介します。ご家族や利用者さんの年齢に合わせて選曲する際の参考にしてください。
70代に人気の歌(1960年代~70年代ヒット曲)
70代の方が10代~20代だった1960年代から70年代は、グループサウンズやフォークソングが大流行した時代です。テレビの歌番組も全盛期を迎え、数々のヒット曲が生まれました。甘酸っぱい青春の思い出がよみがえるような楽曲が多く、今でもカラオケで愛されています。
- 瀬戸の花嫁 / 小柳ルミ子
- また逢う日まで / 尾崎紀世彦
- ブルー・シャトウ / ジャッキー吉川とブルー・コメッツ
- 贈る言葉 / 海援隊
- 学生街の喫茶店 / GARO
80代に人気の歌(1950年代~60年代ヒット曲)
80代の方が青春時代を過ごした1950年代から60年代は、映画が娯楽の王様だった時代。石原裕次郎などの銀幕スターが歌う映画の主題歌や、ロカビリー、ポップスなど、洋楽の影響を受けた新しい音楽が次々と登場しました。戦後の復興から高度経済成長へと向かう、日本の活気が感じられる名曲が揃っています。
- 有楽町で逢いましょう / フランク永井
- お富さん / 春日八郎
- 君といつまでも / 加山雄三
- スーダラ節 / 植木等
- 東京キッド / 美空ひばり
90代にも馴染み深い童謡・唱歌
90代以上の方にとっては、昭和初期以前の流行歌や、子どもの頃に学校で習った童謡・唱歌が特に心に響きます。歌詞がシンプルで覚えやすく、メロディーも穏やかなため、世代を超えてみんなで一緒に歌いやすいのが大きな特徴です。歌詞カードを用意すれば、さらに多くの方が参加しやすくなるでしょう。
- みかんの花咲く丘
- かなりや
- 浜辺の歌
- 月の沙漠
- 夕焼け小焼け
【目的・シーン別】介護レクやカラオケで盛り上がる歌
レクリエーションの目的やその場の雰囲気に合わせて曲を選ぶことも、参加者の満足度を高める重要なポイントです。ここでは「元気を出したい時」「カラオケでみんなで盛り上がりたい時」「静かに音楽を楽しみたい時」など、目的やシーンに合わせたおすすめの曲をご紹介します。プログラムにメリハリをつけ、より充実した時間を演出しましょう。
元気が出る!手拍子で楽しめる応援ソング
明るくリズミカルな曲は、自然と気分を高揚させてくれます。手拍子や足踏みを加えれば、簡単なリズム運動にもなり、心身の活性化に繋がります。参加者全員を元気にしたい時におすすめです。「明日も頑張ろう」という前向きな気持ちを引き出してくれます。
- あゝ人生に涙あり / 里見浩太朗・横内正
- 明日があるさ / 坂本九
- お祭りマンボ / 美空ひばり
- 若いってすばらしい / 槇みちる
みんなで熱唱!カラオケで盛り上がる定番曲
カラオケレクでは、やはり誰もが知っている定番曲が盛り上がります。男女問わず人気があり、歌いやすいメロディーの曲を選ぶのがポイントです。マイクを順番に回しながら、みんなで熱唱すれば一体感が生まれます。合いの手や手拍子を入れやすい曲を選ぶと、歌う人だけでなく聞いている人も一緒に楽しめます。
- きよしのズンドコ節 / 氷川きよし
- 銀座のカンカン娘 / 高峰秀子
- 憧れのハワイ航路 / 岡晴夫
- ラブユー東京 / 黒沢明とロス・プリモス
しっとり聴きたい、心に染みる名曲
体操やゲームの後など、クールダウンの時間に落ち着いた雰囲気で音楽を楽しみたい時には、歌詞をじっくりと味わえる名曲がおすすめです。美しいメロディーに耳を傾けることで、心がリラックスできます。利用者さんの大切な思い出を引き出し、会話が生まれるきっかけになるかもしれません。
- 見上げてごらん夜の星を / 坂本九
- 千の風になって / 秋川雅史
- 知床旅情 / 森繁久彌
- いい日旅立ち / 山口百恵
【季節別】四季の移ろいを感じる歌
季節感のある歌をレクリエーションに取り入れると、プログラムに彩りが加わり、時間の感覚を認識しやすくなる効果も期待できます。日本の美しい四季を歌った名曲は数多く存在します。季節のイベントや日々の体操のBGMとして、その時期に合った歌を活用してみましょう。
春に歌いたい歌
厳しい冬が終わり、暖かい日差しとともに花が咲き始める春。希望に満ちた明るい歌がぴったりです。
- どこかで春が
- 春が来た
- さくら(独唱) / 森山直太朗
夏に歌いたい歌
青い空と生命力あふれる緑がまぶしい夏。少し懐かしい風景を思い出すような、爽やかな歌がおすすめです。
- 茶摘み
- 浜辺の歌
- 少年時代 / 井上陽水
秋に歌いたい歌
紅葉が美しく、少しセンチメンタルな気分になる秋。心に染みるような、叙情的なメロディーが似合います。
- もみじ
- 里の秋
- 赤とんぼ
冬に歌いたい歌
空気が澄み、家族や仲間との温かさを感じる冬。みんなで歌うことで、心がほっこりするような歌を選びましょう。
- たきび
- 冬景色
- お正月
音楽レクを成功させる!選曲のコツと注意点
せっかくの音楽レクリエーション、参加者全員に心から楽しんでもらいたいものです。素晴らしい時間にするためには、ただ人気の曲を流すだけでなく、少しの工夫と配慮が大切になります。ここでは、より満足度の高い音楽レクを実現するための、選曲のコツや運営上の注意点をご紹介します。
利用者の年代や好みに合わせた選曲を
最も大切なのは、参加者に合わせた選曲です。この記事で紹介した年代別のリストを参考にすることはもちろん、事前に好きな歌手や思い出の歌についてリクエストを取るのも非常に良い方法です。演歌、歌謡曲、フォーク、童謡など、特定のジャンルに偏らないようにバランス良くプログラムを組むことで、より多くの利用者に楽しんでもらえます。
歌詞カードを用意して参加しやすくする工夫
メロディーは覚えていても、歌詞がうろ覚えで歌えない、という方は少なくありません。そんな時のために、文字が大きくて見やすい歌詞カードを準備しておくと、参加のハードルがぐっと下がります。インターネット上には無料でダウンロードできる歌詞カードの素材も豊富にありますので、積極的に活用して、誰もが歌唱に参加しやすい環境を整えましょう。
聴くだけでもOK!無理強いしない雰囲気づくり
中には、歌うのは苦手だけれど音楽を聴くのは好き、という方もいらっしゃいます。「歌わなくても大丈夫ですよ」「手拍子だけの参加も大歓迎です」といった声かけをし、誰もが安心してその場にいられる雰囲気作りを心がけましょう。音楽を聴きながら静かに昔を思い出すだけでも、その人にとっては価値のある時間です。一人ひとりの楽しみ方を尊重することが、成功の鍵となります。
まとめ:懐かしい歌で心豊かな毎日を

今回は、高齢者に人気の歌を総合ランキングや年代別、目的別など、様々な角度からご紹介しました。懐かしい歌は、単に昔を思い出すだけでなく、心を癒し、身体を元気にし、そして人と人とのコミュニケーションを円滑にしてくれる素晴らしい力を持っています。
この記事で紹介した楽曲リストや選曲のコツを参考に、ぜひ介護施設のレクリエーションやご家族との団らんの時間に、懐かしい歌を取り入れてみてください。音楽を通じて、利用者さんや大切なご家族の毎日が、より一層心豊かで笑顔あふれるものになることを心から願っています。
高齢者の歌選びに関するよくある質問
70代、80代、90代で人気の歌は違いますか?
はい、人気の傾向は異なります。一般的に、人は10代~20代の青春時代に聴いた音楽に最も強い思い入れを持つためです。70代の方なら1960~70年代のフォークやグループサウンズ、80代の方なら1950~60年代の歌謡曲が特に好まれます。90代以上の方には、昭和初期の流行歌や童謡・唱歌が人気です。本記事の「【年代別】青春時代がよみがえる歌謡曲・懐メロ」で詳しく紹介していますので、ご参照ください。
カラオケで盛り上がる曲や、元気が出る曲を教えてください。
カラオケで盛り上がるのは、やはり誰もが知っていて手拍子しやすいアップテンポの曲です。氷川きよしさんの「きよしのズンドコ節」や水前寺清子さんの「三百六十五歩のマーチ」、美空ひばりさんの「お祭りマンボ」などは定番です。また、坂本九さんの「明日があるさ」のように、歌詞が前向きで元気がもらえる応援ソングも喜ばれます。
高齢者が歌いやすい曲を選ぶコツはありますか?
歌いやすさを重視するなら、メロディーラインがシンプルで、音域の上下が激しくない曲がおすすめです。童謡・唱歌の多くは、この条件に当てはまります。「ふるさと」や「みかんの花咲く丘」などは、声が出しやすく、歌詞も覚えやすいため、多くの方が気持ちよく歌えます。また、美空ひばりさんの「川の流れのように」のような、テンポがゆっくりな曲も自分のペースで歌いやすいでしょう。
老人ホームやデイサービスで特に喜ばれるのはどんな歌ですか?
介護施設では、参加者全員が楽しめるよう、特定の個人の好みだけでなく「みんなが知っている」という共通認識が大切です。美空ひばりさんの「川の流れのように」や坂本九さんの「上を向いて歩こう」、唱歌の「ふるさと」などは、世代を超えて知名度が高く、自然と一体感が生まれやすいので特におすすめです。また、本記事の「【季節別】四季の移ろいを感じる歌」で紹介したような季節の歌を取り入れると、生活にメリハリが生まれます。